時を越えて

□5話
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昔、人造人間が街を壊し始めたとき、私は父さんと母さんと、女中のガルダと共に邸に隠れていた。
邸というのは祖父が残していった家で、私が生まれる前に譲り受けたらしい。
そしてガルダという女性は、祖父が生きていた頃から仕えていた女中で、人造人間が現れるようになってからも家でよく働いてくれた。
『マリーお嬢様、お外に出られては危険とお母様にも言われているでしょう』

『人造人間なんか来ないよ。
私見たことないもん』

『お嬢様!』

幼い私の相手をいつもしてくれたいた。
何度か脱走しようとする私を止めたのも彼女だった。

『マリーいけません、ガルダを困らせては。
貴女を人造人間のところに連れていきますよ』

『ごめんなさい…』

邸を走り回る私をいつもピシャリと叱ってくれたのは母だった。
しかし普段は優しく、良き母となり私の側にい続けてくれた。
私と同じ銀髪はいつもサラサラで、私は母さんの髪の毛にスリスリと頬を寄せる。そんな私をいつもおかしそうに見て笑っていた。
父さんは仕事に明け暮れていて、あまり共に過ごした記憶はない。
それでもたまに会う日には仕事の話を聞かせてくれて、『父さんは人々に役立つ研究をしているんだよ』と教えてもらった。
まだ幼かったから内容は理解していなかったし、何を言っていたかも覚えてない。
でも一つだけ覚えているのは、楽しそうに話す父さんを見ているとこっちまで楽しくなってきて、理解はできなくてもずっと聞いていられたということだ。



『皆一緒にあの世へ送ってあげるから、安心して行くといい』

しかし楽しかった記憶はそこで途切れた。
男の人が手をかざした途端、一瞬にして、全てが灰になったのだ。

最愛の母を、尊敬していた父を、同時に失った悲しみは私の心を壊した。
こいつを殺す、私は憎しみと怒りのみが心に湧いた。
私は父から土産として貰ったナイフを思い出した。南の島に大昔の文献が隠されていて、それを研究に行った時父が買ってきたものだ。
刃渡り15cmほどの、子どもにしては大きめのナイフ。
母からは危ないから置いておきなさいと言われたが、抜かないことを条件に腰につけて歩いていた。
私は初めてナイフを抜いた。
銀色に艷めく刃は鏡のように美しく、また冷たい光を放っていた。
それを人造人間に向けて狙いを定める。
上からは埃や石が落ちてきて、何度か頭に当たり、額からは血が流れたが気にしなかった。
子どもには似合わない目をしていたと思う。
「ガキが俺達に勝てると思うのか?」
からかうように笑う人造人間は余裕だった。
ナイフ一本持っただけの、それもただの人間の子どもが、どれだけ強い大人が挑んでも勝てなかった相手に勝てるわけがない、と。
しかしそれでも私はただ仇を取る一心で、人造人間に向かって走った。



『お嬢様!!』

しかしガルダに呼ばれて気づいた時には私は抱き抱えられていた。
どうやら外を走っているらしく、私は燃える邸をただ呆然と見つめていた。
話に聞けば走り出そうとした時柱が倒れてきて、その時隙を見てガルダが私を連れて逃げ出したという。
「どうして!!どうして!!」
私はずっとそう叫んでいた記憶がある。
それはいいところで私を連れ出した女中に対してか、
なぜ親を殺されなきゃいけなかったのかという疑問か、
なぜ私も殺さなかったのかということか、分からなかったが。
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