時を越えて

□1話
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満点の星空の中、煌々と輝いている満月が砂浜で座る少女をぼんやりと浮かび上がらせている。
ただ少女の銀の髪は風が吹く度にさらさらと靡き、また月の光でキラキラと照らされていた。
少女の目は海の向こうか、はたまた波の一つ一つを見ているのか、ただじっと遠くを見つめていた。
そんな時、ザッザッと砂の上を歩く足音に少女は気付き、ハッと音の方を向いた。
こんな夜更けに人が訪れるとは到底思えず、腹を空かせた野良犬か、この治安の悪さからすると悪巧みを考える悪党か、彼女は闇の中にいる何かを警戒した。
「こんばんは」
暗闇の中から聞こえた声は青年のような若い声で、優しさの中に凛としていてしっかりしたものを持っているような、聞くものを安心させられる声だった。
「こんばんは…」
悪いやつではないと察し、か細い声で少女もその青年の言葉に返事した。
しばらくすると歩く音が止まり、闇の中から好青年が現れた。
細身に見えるが首や胸板は厚く、しっかりと鍛えられていることが見て取れた。
月の光で照らされたその青い瞳は優しく少女を見つめ、少女を惚れさせるには容易かった。
「いつもここに?」
隣に腰をおろした青年は少女から目を離し、広い海を見渡した。
「はい…思い出の場所だから」
少女もまたそれに答えた。思い出の場所と一言で片付けるには簡単すぎると一瞬少女は思ったが、それは口には出さなかった。
「僕もここは思い出の場所なんだよ」
青年は少女に微笑みかけてそう言った。
ぽっと頬が赤くなるのを感じたが、幸い今は夜で月の光でしか照らされていないため、青年にはバレなかった。
「ここでよく、悟飯という人に武術を教わったんだ」
懐かしそうに目を細めると、ゆっくりと話し始めた。
少女も黙ってそれを聞いていた。
「人造人間、あいつらの事は君も知ってるだろう?
あれを倒すために僕と悟飯さんはずっと鍛えてきたんだ。
だけど悟飯さんが死んでから三年、四年と経ち…僕はまだ人造人間を倒せずにいる」
悔しさで拳を握りしめるその姿を少女は見ていることが出来なかった。
少女も人造人間のことは知っていた。そのとてつもないパワーもまた体感していた。
きっとこの人は何度も何度もあの人造人間に挑み、そして何度も傷つき敗れてきたんだろうと青年を思えば思うほど、少女もまたあの人造人間にどうしようもない憤りを感じた。
何も言えずに俯いた少女に悪いと思ってか、青年は急に明るい声を出して笑顔を向けたが、少女は逆にそれが苦しかった。
「ごめん、そんな話をされても困るよな。
さあもう夜も更けてきたし、家まで送るよ」
立ち上がった青年は月の光の逆光になり、少女からはどんな表情をしているのか読み取れない。
だが声の調子から読み取る分には出会った時と変わらず、優しいしっかりとした声だったため、少女は甘えて青年について行った。
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