みじかいのん

□へこみパイ
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ピコン



Twitterの通知音が鳴る。




「今からレコーディングいってきま!」




昨日、タナカさんはのどのケアを念入りにしていた。



しばらくレコーディングがつづくのだそう。






かんばって。






心の中で応援する。

少しの不安を残しながら…






仕事もそろそろ終わる頃、またTwitterの通知音が鳴った。




「スタバのおねえさんの笑顔に癒されるな」





…やっぱり。





発音か…





タナカさんは英語の発音が苦手だ。どうもうまく発声できないらしい。




付き合って間もない頃うまくいかなくて落ち込んでいるところをなんどか目撃したことがある。





そして、今もかならず新譜がでるたびにエゴサしている。





見なきゃいいのに。







11時30分


そろそろ帰ってくるかな…




ニャンウィズと遊びながら時計を気にする。



「ただいまー…」



元気のない声が玄関から聞こえる。




「おかえり。ご飯は?」



スニーカーの紐をほどいてる後ろ姿に問いかけた。




「カミカゼと食った…風呂入るよ…」





「そ、バスタオルも着替えもおいてるからね」





「…ん」





こりゃ、そーとー落ち込んでるわ。




気にしなくてもいいのに。そんなこといってられないんだろうけど。





ほんと、「海外じゃ通用しない」とか書き込むのとかもやめてほしいわ。




いくら発音できてもお前はその場にも行けねーだろって言い返したくなっちゃう。




やりようのない怒りを押さえてタナカさんがお風呂から出るのを待つ。





タナカさんがお風呂から出てくる。頭にタオルをひっかけたままだ。




ソファーに座っている私の横に座り頭をつきだしてきた。





「頭、拭いて」





はいはい。





ワシワシとタオルで頭を拭く。




タナカさんはどんどん前かがみになってとうとう私の首もとに顔を埋めてしまった。





「タナカさん、そんなに近づいたら頭拭けないよ」




「んー…」




今日はまたひどいな。




私はタナカさんを抱きしめ、背中を優しく撫でてトントンと優しいリズムでゆっくり叩く




「ねぇ、タナカさん…私、今日会議だったの。相変わらずアホばっかりでどうしようもないやつらの集まりだけど、結構怒られちゃった」




タナカさんは私をキュッと抱きしめる。




「でもね、帰りにタナカさんの歌声聞いて会社辞めてやろうかとか部長マジでムカつくとかささくれだってしまった心が癒やされたの。そんでね。きっと私以外のファンのみんなってもっとそういうことにあってて、タナカさんに癒されたり、勇気もらったりしてるんじゃないかなって思ったの」



タナカさんは黙ったままだ。



「タナカさんの声にはスゴイパワーがあるんだよ。だから大丈夫」




「なんで落ち込んでんのわかったんだよ…」





「わかるよ〜ふふ。」




タナカさんの頬を両手でぽんぽんと叩き、




「ほら、もう寝よ」




「スケベ」




「なにもしないよ!人をどスケベみたいに!タナカさんじゃあるまいし」



「おま!!俺がどスケベって」




「ちょっと元気になった?」




「ん〜。ちょっとな」









翌朝




玄関でスニーカーの紐を結んでいる後ろ姿にキュンとなって抱きつく。




「うおっ…」




「トーキョータナカ、今日もがんばれよ」




「わ、わかってるよ。つーかお前ちょっと太った?重い」




「…き、気のせいだ」




昨日のバターケーキ?ミルフィーユカツ?あ、後輩と行ったタリーズのパンケーキか!!
タナカさんに申告してない料理が頭のなかをめぐる。




ちょっと控えないと…



「よし。じゃ行ってきます。」




「いってらっしゃい、がんばってね」





「おう!!」





タナカさんはいつものように家を出ていった。





「ニャ〜」




「ん〜?どした?ニャンウィズ。なにか言いたげね」




「ニャ〜」




「そうですよ。おっしゃるとおり会議なんてないですよ。もう、私は出なくてよくなってるからね。ごめんなさい。ちょっと盛りました。」





「ニャ〜」





「よし、今日は天気がいいから布団でも干しときましょうかね」




「ニャ〜」

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