おそ松さん

□約束
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 いつもと変わらない休日。チョロ松は求人誌を読んでいた。少しでも早い脱ニートを目指し、努力をしているものの実を結ぶ様子は一向にない。だが、諦めるのは性に合わない…というよりも諦めた時点で長男であるおそ松に揶揄われるのが目に見えているため、チョロ松の中にあるプライドがそれを許しはしない。そうしていると、チョロ松の携帯が鳴った。夏梅からの着信だ。彼女は比較的話しやすい部類に入る。特に迷うこともなく、携帯を手に取り電話に出た。
「もしもし?」
「チョロ松?話があるんだけど、今、暇?暇だよね?家にいるからさ、来てくれない?」
 疑問形で話しているにも関わらず、有無を言わさない感じだ。暇と断定しているあたりが癪だが、残念なことに否定できない。
「別にいいけど…なんで?」
「相談したいことが…」
「え?うん、分かった」
 珍しく切羽詰まったような感じだったため、承諾した。

「で、相談って?」
「実はね、今日から…多分一週間。下手したら二週間かな?桜桃梅の面倒を見てほしいの。」
「は?」
 唐突な切り出しに頭はついていかない。桜桃梅とは夏梅の一つ下の妹。まぁ、六つ子なので同い年。のため、ニートの僕が言うのもなんだが、いい大人なわけで…。
「チョロ松の言いたいことは分かってる。でもね、聞いて。うちの桜桃梅は知っての通りの小説家なんだけど、締め切りが近いみたいで。毎回なんだけど、締め切りの二週間くらい前から追い込みをかけるの。」
 どっかの漫画家のようだと思った。
「それが尋常じゃなくて。元々、集中力はあるんだけど、この時期になると自分で集中切れないんだよ。誰かが声かけないと、ご飯食べるのも忘れちゃうし。」
 夏梅は思い出すように言い、「はぁ」とため息をついた。
「で、前に一回ぶっ倒れたんだよね。」
「…え?」
「倒れたの。元々小食なのに時間がないって食べない、食べてもいつもより少ない。睡眠時間も短いで。まぁ、拒食症みたいな病気ではなかったし、ただの睡眠不足だったからよかったんだけどね。たださ、それ以来どうも心配で。過保護だと思うかもだけど…」
「いや、そりゃ心配になるでしょ」
 兄弟でない自分ですらそれは心配だとチョロ松は思った。
「それでね、一人にしておきたくなくて。でも、私たち皆仕事あるからさ。チョロ松、面倒見てくれない?平日の昼間だけでいいから。お願い‼」
「いや、いいんだけど…さ。」
 チョロ松は少しためらうように言った。
「僕も男なんだけど。大事な妹を男と二人きりにしていいの?」
「いや、だって、チョロ松童貞だし。平気でしょ。」
 スッパリと夏梅は切り捨てた。
「でも、お手伝いさんとかいるでしょ?お金は掛かるかもだけどさ…」
「その案も考えたけど…桜桃梅、人見知りだから。知らない人はダメ。」
 そのまま、夏梅は続けた。
「だから、桜桃梅が知ってる人で平日の昼間に時間が空いてる人が…」
「僕ってこと?」
「うん。あとは六つ子の中で一番信頼できる。」
「あ、ありがとう。」
 素直に嬉しいなとチョロ松は少し照れた。
「で、具体的には何をしたらいいの?」
「お昼を無理矢理でも食べされる。あと、適度に休憩させる。それから、急に倒れないか様子を見る。」
「…それだけ?」
「それだけ。お昼は温めればいいようにするから。チョロ松の分も作っておくし。」
「分かった。」
「ありがとう。初めてチョロ松がニートで良かったと思ったよ。あ、お礼は出すね。あんまり高くは出せないけど、ドルオタも収入源なしじゃ辛いでしょ?アンタの好きな…えっとなんだっけ?ニャーちゃん?にでも使ってよ。」
「え?本当?いいの?」
「いいよ。」
 こうして、チョロ松と夏梅による約束が結ばれた。
 

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