おそ松さん

□クノイチでも恋がしたい
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「全員いる?」
「いるよ。」
 ヒソヒソと庭の茂みの方で声がする。だが、それに気づいているのは、木の上にとまっている鳥くらいだろう。
「せーので抜けるよ。」
 茂みに隠れた一人の少女が後ろの方に小さく声を掛けた。後ろにいる五人は黙ったままコクリと頷く。
「せーのっ」
 道場にいる大人たちの目を盗み、六人の少女は茂みから飛び出した。

「また勝手に抜け出して」
 母に抜け出したことがバレ、六人仲良くお叱りを受けている。
「まぁ、母さん。いいじゃないか。今日はお祭りなんだし、このくらいでさ。」
「お父さんは甘いんだから」
 母はそう言いつつも、お小言の最後に必ず言う言葉を口にした。
『クノイチ(女)は女を捨てなさい』

 両親からお小遣いをもらい、村へ駆け出した。多くの屋台と人で賑わっている。六つ子の五番目に生まれた紅梅は立ち並ぶ店に目移りしていく。
「はぐれちゃだめだよ、紅梅。」
「うん」
 一つ上の姉に言われて返事をするものの、姉の言葉は耳をすり抜けた。紅梅の目に飛び込んだ丸く赤い食べ物。それに引かれるように紅梅の足はふらりとそこへ向かっていった。
「まいど」
 屋台のおじさんからリンゴ飴を受け取る。真っ赤なリンゴ飴は村を彩る光を浴び、キラキラと輝いている。
「美味しそうだよ、ねぇ…」
 クルリと振り返るが紅梅の後ろに知っている姿はなかった。それを見て初めて自分が姉妹とはぐれてしまったことに気づく。
「どうしよう…」
 紅梅はぼそりと呟いたもののどうするべきかは分からず、ただ黙っていることも性に合わず適当に歩み出した。人ごみの中でカランコロンと寂しく鳴っている。先ほど買ったばかりのリンゴ飴をペロリと舐める。甘いとは思うが、美味しいとは思えなかった。
「皆、どこ行っちゃったのかなぁ…」
「誰を探してるの?」
「ぅわっ‼」
 紅梅が振り返ると一人の少年が立っていた。少年はニコリと笑いながら、「誰かとはぐれたの?」と聞いてくる。
「うん。お姉ちゃんたちとはぐれちゃって…」
「じゃあ、一緒に探してあげるよ」
「えっ…?」
 少年は紅梅の手を取り、引っ張っていく。
「君のお姉さんたちってどんな感じ?」
「えっとね、色違いの浴衣着てて、顔がそっくりなの。」
「そうなんだ。僕もね、顔がそっくりの兄さんがいるんだ。末っ子なんだよ。」
「私はね、妹が一人いるよ。」
 右手にリンゴ飴を持ち、左手は少年の手を握り
「ねぇ、もしかしてあれ?」
 紅梅は少年の指さす方向を見る。人混みを掻き分けた先には見慣れた姿があった。少年は##NAME5#の表情を見て、確信を得た。
「ほら、きっと皆も心配してるよ。」
 少年がそっと紅梅の左手を離していく。紅梅は姉妹の元へと走り出した。
「皆―‼」
「ちょっと、どこ行ってたの?紅梅」
「心配したんだよ?」
「ごめんごめん。あのね、ここまでね…」
 そう言いながら後ろを振り返る。先ほどの少年の姿はなかった。
「あれ?」
「どうしたの?」
「なんでもない。」
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