おそ松さん

□小さな動機
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 松野家の居間はいつも以上に騒がしい状態だった。それもそのはずである。休日の今日は梅原家の六つ子が遊びに来ていた。そのため、騒がしさに拍車をかけていた。
「……はぁ」
 部屋の隅のほうで連れてきた野良猫を抱きながら一松はため息をついた。
「ごめんね。騒ぎ過ぎだった?」
 一松は視線を猫から外し、上へと移動させる。梅原家の次女、香奈梅が一松の目の前に座りながら、少し心配そうに首をかしげた。別に騒がしいのが嫌いなわけではない一松にとって先ほどのため息は大した意味を持ってなどいなかったわけだが。
「別に…」
「ならいいんだ。」
 そういうと、するりと一松の隣に座り込んだ。一松は内心驚きつつも表情には出さず、猫に視線を戻した。遊びに来ると香奈梅は必ずと言って良いほどこうして一松の隣に座って話しかける。
「実はこの前、とてもCuteな猫を見かけたんだ。純白の…そう何物にも染まることないその天使のような柔らかな毛並みをなびかせていて…」
 相槌も打っていないよく喋るなと一松は思った。それくらい香奈梅はペラペラと言葉を並べていく。話題は全部猫のため、一松も話の内容にはあまり不快には思わなかった。
「どうやらその猫にも私の美しさが分かってしまったらしく…」
 ただし、その口調はどこかの誰かを思い出し、少しイラつくこともあったが。
「…って、私ばかり喋ってしまったな。今度は一松の話を聞こう。」
「……特にない。」
「そ、そうか…。」
 バッサリと切り捨てられ、夏梅は少し眉を下げ、困った表情を見せる。気まずい沈黙が二人の間に流れる。周りでは相も変わらず、ガヤガヤと騒いでいる。
「ねぇ、なんで毎回俺のところに来るわけ?」
 おもむろに一松から問われた質問に香奈梅は「へ?」と間抜けな声が出た。しかし、一松は気にすることもなく続ける。
「こんなのと会話したって何の面白みもないし、楽しくもないでしょ?なんでわざわざ俺なんかのところに来るの?」
「そ、それは…」
「それとも何?俺みたいなクズに同情してるの?時間の無駄だから止め…」
「違うよ」
 一松の言葉を香奈梅は遮った。
「私は一松と友達になりたい。」
「は…?」
 何をバカなことを言っているのだろうと一松は思った。しかし、香奈梅の目はまっすぐ一松に向けられている。
「一松は自分のことをクズだっていうけど、私はそう思ってないよ。一松はすごく兄弟思いで優しいでしょ。これはカラ松から聞いたことなんだけどね。」
 余計なことを言いやがってと一松はカラ松に対し、怒りを覚える。そんな一松を余所に香奈梅は「それにね、」と言った。
「兄弟だけじゃなくて、動物にもすごく優しい。あと、とっても真面目で…」
「アンタに何が分かるの。」
「分かるよ。だって、ずっと見てたから。高校の時だけど、毎日欠かさずに学校で飼育してた動物の面倒見てたよね?朝と放課後と。ご飯は当番制だったみたいだったけど、毎日掃除してたし。当番忘れてる人がいたら代わりにあげてたし。だからね、そんな一松と仲良くなりたいの。」
 「ダメかな?」と笑って見せる香奈梅に一松は顔を逸らし「勝手にすれば?」と呟いた。
「いいの?ありがとう」
香奈梅の満面の笑顔を見た一松は抱いていた猫を下ろし、立ち上がった。そのまま障子に手をかけ、廊下に出ようとする。
「あれ?一松。どこ行くの?」
 一松がどこかへ行こうとしていることに気が付いたチョロ松は声を掛けた。
「…トイレ。」
 兄弟の所在を把握しておきたかっただけのチョロ松は「そう。いってらっしゃい。」とだけ言って再び他の兄弟たちの馬鹿騒ぎにツッコミを入れていく。廊下を出た一松を静かに襖を閉め、家の奥のほうへ向かって進んでいく。突き当たりまで来ると座り込んで、胸のあたりのパーカーを握りしめた。
 

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