novel
□君がいないと
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雛森桃、ピンチです。
目の前には狂暴で有名な大きな大きな犬。
「う〜〜、ここ通りたいのに…!」
一本道の真ん中に犬。
犬、というか雛森は動物が基本的に好きである。
しかしこの犬は誰にでも噛み付くという狂暴犬だった。
(まさか犬に軌道なんて使うわけにもいかないし…っ。ていうかあれ犬のサイズじゃないよ!)
そーっとそーっと。
足を忍ばせる。
(あとちょっと。お願いだから気づかないで…!)
幸いなことに今、問題の犬は雛森に気づいてない。
ジャリーー
ピクっ。雛森の僅かな足跡に犬が反応した。
「ワンワンワン!!!」
「ひぃいいいごめんなさいごめんなさい!!!」
最初いた位置よりも全力で遠くに逃げた。
犬は追いかけることもせず、また元の定位置に座っている。
(はぁああ。早くおばあちゃんに会いたいのに。)
今日は非番の日。副隊長という激務の日々の貴重な休日だ。雛森はよく休日にこうして祖母に会いに行く。
(桃!しっかりするのよ!五番隊の副隊長でしょ!)
自分で自分を鼓舞し立ち上がる。
そして一歩一歩近づいて…
「……やっぱ無理だ〜〜」
膝を抱え込んでうずくまった。
ーいつもならシロちゃんがぶーぶー文句言いながらも連れてってくれるんだよなぁ。
長い幼馴染期間を経て現在は恋人同士の十番隊隊長 日番谷冬獅郎は例によって副官が書類を溜め込んでいたので休日返上で事務作業である。
はぁ。せっかく久々にゆっくり会えると思ったのに。だからかもしれない。思わずポツリと言葉が零れてしまったのは。
「…シロちゃん」
「おう」
「・・・・」
「なんだよ人の名前呼んで。やっぱりまだこんな所にいたか。」
しょうがねぇなぁ。どこが怖いんだか。とぶつぶつ言っている冬獅郎。
「…シロちゃん?」
「おう。だからなんだよさっきから。」
「だって…急に…し、仕事は。」
「松本が珍しく責任感じてちゃんと働いているから少し時間が出来たから来てみたんだ。今日2人で会うの知らなかったんだと。今度奢るってよ。」
ま、来てみたら案の定まだ着いてねぇし。と言って桃のオデコにデコピンをした。
ほら、と言って差し出された手。
「…!へへっ。」
ぎゅっと掴み返す。
「なんだボケーっとしたり笑ったり。」
「んー?やっぱ私シロちゃんいないと駄目だなぁって思って。」
満面の笑みで伝える。
ちょっと赤くなった君の顔。
強く握り返された手に、俺もだよ、なんて声が聞こえた気がしてもっと嬉しくなった。
》オマケ
「んで無事に雛森はおばあちゃんの家に行けたんですか?」
「おう。」
「でも帰りどうするんですか。あの子帰ってこれませんよ。」
「…迎えに行く。」
相変わらず過保護だこと、と肩をすくめてからかう副官に上司のお怒りが飛ぶまであと少し。
▷後書き