hortus(庭)

□これが現実
2ページ/16ページ

〜♪♪♪〜


  突然なりだした音楽に
  ビクリと肩を震わせる

  「私の携帯・・・?」

  あたりを見回せば対面式キッチンの
  カウンターにそれが置いてあった
  

  近づいて画面をのぞき込めば
  登録した覚えのない名が躍っている
  

  一瞬迷ったがこの事態が少しは
  変わるかもしれないと
  恐る恐る通話のボタンを押した

  
  「寝てたかー?」


  「あ・・・いえ起きてました」

  思いの外親し気に対応されて
  二の句がつげなくなってしまった
  

  彼はそんなことは気にもとめずに
  いろんなことを話しだす


  そこで判明したことは私は孤児であること

  
  彼は父の親友で
  保護者をしてくれていること
  

  仕事の関係で一緒に住めなくなって
  彼の実家で私は
  一人暮らしをすることになっていること
  

  中学生が一人暮らしって・・・
  と思ったが色々手を尽くして
  こうなったらしいから
  文句なんか言えない


  何より精神的には
  とっくに成人してるわけだから文句はない

  
  「あの」


  「んー?」


  「色々ありがとうございます」


  「なんだ?改まって」


  照れくさそうな声を聞きながら
  スーッと肩の力が抜けるのを感じた


  目が覚めたら世界が変わっていて
  驚きも戸惑いも拭えてはいない
  

  でも戸籍もちゃんとしているし
  遺産があるらしく学費も生活費も心配ない


  つまり生活には困らない
  

  どうしてこうなったかも
  これからどうなるのかもわからないが
  そんなこと考えたってわかるわけがない


  ならばとりあえず
  今日からここが『私の世界』
  二度目の中学生活を楽しもう
  そう思うことにした

  
  「言いたくなっただけですよー」


  「変な奴だな」


  「ふふふッ」

  
  覚悟を決めれば
  もうそこに戸惑いはなかった
  

  こみあげる笑いをごまかしながら
  優しい声の保護者との会話を楽しんでいた
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ