【長編】不思議な教師と吸血鬼

□第2話 呼び出し
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傷付いた。立ち直れないくらいに。

でも少しだけ癒された。

「…可愛かったな」

罰が夕飯抜きとか…可愛すぎでしょ。

っていうか、あの子達…そんなに怒らせるような何をしたんだろう。

わざと思考をさっきの人達に持っていくと、思っていたより気が紛れた。

嘘ついちゃって、悪かったかな。

でも助かった人数はそっちの方が多いし。いい判断だったんじゃないかなって思う。


また少し笑えた。






「おーい。顔が死んでますよー?」

「…ん、あ、あぁ。ごめん」

目の前でヒラヒラと手を振られてハッと気が付く。

またぼーっとしてたみたいだ。

「なになに?最近様子が変だけどー?」

「ううん、なんでもないんだよ…えーと次は……?…っっ!!」

「どうしたの?次は社会だよ」

あれ以来シュウさんとは喋ってない。そもそも彼は気付いてない。私が目撃して、傷ついている事。

いつもギャーギャー言いながらうざいくらいにシュウさんに引っ付いている私が、全然近づいて来ないから不思議に思ってるんだろうな。

…気にもしてないかもだけど。

「おっ!鐘鳴った!じゃ、またね〜」

「うっ、うん!」

「次は逆巻先生だね〜」

「うん♪凄い楽しみ」

なんで会話をしながら席に帰っていく友達の後ろ姿を見ながら机につっぷつす。

「あー……」

どうしよう、ずっと寝たフリでもしてようか。
いや、後から呼び出しくらっても困る。

普通に、真面目に受けた方が良いのかな。

「…立て」

だるそうな声が聞こえてきてしまって身体が大きく跳ねる。

囁き声が聞こえる。主に女子の。これもいつもの事。

「…んー…じゃ授業始める」

お願いします、といつもよりも大きな声で挨拶が揃って椅子を一斉に弾く音が教室に響く。

みんなシュウさんの時は元気だ。かっこいいし、憧れの先生だから。
でも…
…もしかしたら、彼女というポジションにいる生徒は私の他にもいっぱい居るのかもしれない。勝手に一人だけだと思い込んでいたけど、実はそうではなかったのかもしれない。

……こうなってしまうと何もかもが信じられなくなっている。

寝たふりをした方がいいとか、いっぱい考えていたけど、考え事にいっぱいいっぱいで、授業をする声さえ聞こえて来なくて、まぁそれはそれで良かったかな、なんて。


気が付けば全然ノートを書いていないのにチャイムが鳴った。

「…あっ!!…どーしよ、ノート取ってないな…後で友達に、」

「後で俺のところに来い」

「っ!?」

何気なく呟いた独り言に答える声が聞こえて。それも一番聞こえて来てほしくなかった声に。

「っ、逆巻、先生……」

「分かったか」

「っ……」

怒られるのだろうか、ノートをちゃんと取れって。二人っきりになるのは、今の私にとって死にたい位嫌な事だ。

ちゃんと授業受ければ良かった。

「分かりました」

他の女の子からいいな〜、なんて声が聞こえてくる。全然良くないよ。

なんなら変わってよ。と思っていたら

「ちゃんと自分で来い。あと一人で」

まるで心の内を見られたかのように言われてギクッと身体をすくめる。

この人は変な所でいつも鋭い。

「……はい」

俯きながら返事をした。








「はぁ……」

溜息を吐きながら重い腰を上げる。

「なに溜息ついてるの〜?」

「羨ましいな〜逆巻先生に呼び出しとかさ」

全然羨ましくも何ともないよ。

「…だって怒られるよ多分。一人で来いって言われたし…」

「頑張ってらっしゃい」

「……はーい」

とぼとぼと歩き出す私を、何であんなに落ち込んでるのとクラスの全員が見ているのが分かる。あの逆巻先生からの呼び出しなのに。

「もー、最悪…」

「なーにが最悪なの〜?」

「うわっ!?」

突然目の前に影が入ってきて、ぼーっとしていて驚いてしまう。

「そんなに驚く事?!あ、この前はありがとね♪俺、無神コウって言うんだ〜♪」

「あっ、あの時の…私名無しさんって言います」

「よろしくね名無しさんちゃん♪ところで何処行くの?凄い嫌そうに歩いてたけど」

「…ううん、実は先生に呼び出されて…」

「あー、それで。真面目だね〜。そんな先生、俺がやっつけてやる!」

「えー!やっつけちゃうの!?」

なんてたわいもないけど楽しい会話をしながら歩いているといつの間にかあの倉庫の前で。

「ここ?」

「…うん」

「よーっし、俺が…」

いいの、と手でコウくんを押し止める。
何で?と不思議そうな顔をしたコウくん。

一人で来いって言われたし。他の男の子と一緒に居ると何言われるかわかんないし。

一回だけ、重い荷物を運んでたら優しい男の子が助けてくれて、それに甘えてシュウさんの所に二人で行った時、その男の子の前で…血を吸われた。

嫉妬してくれていたのかも、と嬉しく思ったのは一瞬で、人前で血を吸われたという事が恥ずかしくて、耐えられず逃げ出した事がある。

…あんな思いはもうしたくない。

「怒られるのは私が悪いし。だから自分一人で大丈夫。後からコウくん怒られたら大変だしね」

「ん…そっか。それなら良いんだけど…頑張って♪」

「うん、ありがとう」

本当はコウくんが居てくれたらどれだけ助かるか…
でも、ここで甘えるとまた同じ目に合う。

「……失礼します」

後ろに立っているコウくんに軽く手を振りながらドアを開ける。
あの何とも言えない血の匂いを思い出してしまったけど、頭をぶんぶん振って振り払う。

さっさと怒られて、さっさと帰ろう。


資料の山の奥に一個だけある古びた椅子に座りながら、寝ているのだろうか。見向きもしない。

…このまま、帰っちゃおうかな。
バレなさそうだし。

ドアの方にそっと足を向けた。

「おい」

「お、おおお、起きてたんですか」

敬語を使ったのはあくまで先生と生徒という心の表れ。

早く叱って帰してくれっていう気持ち。

「……なに、俺と距離置きたいって言いたいの?」

「いや…ここ学校だし…」

「学校でしか会わないだろ」

事実を言い当てられて言葉につまり俯向く。

そうなんだ、私とシュウさんはプライベートでデートをした事がない。

放課後二人で残って勉強教えてもらったり、買い物に付き合わされたり、
お昼に呼び出されてお弁当食べたりはあるけど…
全部学校で。

気付いていたけど実際に言われると少し傷つく。


「えっと、その…ノート今度からちゃんと取ります」

そう呟いて帰ろうとすると

「そういえば…」

という声に引き戻される。

「外でコウと喋ってたな、アンタ」

「っ……」

声に感情が含まれていなくて余計に怖い。なにを思ってその言葉を言ったのか。全く読めない。

「あんたって色んな男引っ掛かるの好きなんだ…へぇ」

蔑む様な顔でこちらを振り返ったシュウさんは…とても怖い。
鳥肌が立つ。

「べっ、別に引っ掛けてなんかなくて…あれは、その、落ち込んで歩いてたらコウくんがっ…」

「引っ掛けてるだろ。前もこの前もその前も…アンタ、男と二人っきりで何してた」

「っ…」

見てたのか。違う。そうじゃない。
呼び出されて、告白されて、断った。

それだけなのに。

「別に私から呼び出した訳じゃ…」

「そんなに隙を見せてるから他の男に目付けられるんだよ…っほらっ…」

私悪くないのに責められてる、と若干不機嫌になりながら話を聞いていると
突然腰に手が伸びてきて、
そのまま前に倒れる。

これじゃあ、まるでシュウさんに跨っているように見えてしまう。

「っ、っ……」

「…重。降りろ」

自分がやった癖に。更に不機嫌になりながら降りる。
この人は。私の事なんか見ていない。そう分かった今でも。
先程のような事をされる度に胸が煩くなる。嫉妬してくれてるんじゃないかって、思ってしまう。

認めたくなくて、これ以上いると想いが爆発してしまいそうで、
何も言わずに大きく身を翻して扉に向かう。

そんな私の背中を
シュウさんは何も言わずに見ていた。

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