【長編】不思議な教師と吸血鬼
□第1話 傷心
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放課後の誰もいない学校。
放課後、といってももう真夜中なんだけど。先生に頼まれたとはいえ、結構怖い。早く行こう。
「先生?入りますよ〜」
倉庫の扉をゆっくり開けると何故かとても血生臭かった。何の匂いなの、これ。凄く大変な事が起こってる気がしなくも無いけど…。
鼻を押さえながら奥に進むと
「シュ…うさん……」
見覚えのありすぎるふわふわの金髪が私の目に写ってしまって。
見なかった事にしよう、心の中では冷静でも冷や汗が止まらない。
呼びかけても返事がない、と言うことは目の前の女の子の吸血に夢中なんだろう。
「ん…シュ、ウさ…も、やめ…」
「止めてって言っといて顔蕩けてる…ククッ…この淫乱」
血生臭い匂いで頭が酷く混乱してしまう。何も考えられない。うそ、シュウさん。それしか頭に浮かばない。
「…シュウさん」
そっと震える声でもう一度呼びかけても返答がなく、目に溜まっていた涙を拭いながらそっと倉庫を後にする。
扉を閉めようとした瞬間、女の子が勝ち誇ったように笑ったのは気のせいだろうか。
酷く胸が痛む。頼まれていた資料も置いて来てしまった。倉庫の外に。
私の先生でもあり彼氏でもある逆巻シュウは社会科の教師だ。授業にやる気は感じられないものの、素の頭が良いのか、授業がとても分かり易い。そのルックスから女子生徒からモテモテだし、男子生徒からの憧れの眼差しも少なくない。そんな人気のある教師だった。
私は教壇に立つ彼に密かな想いを寄せていたけど、仮にも先生と生徒だし。叶うわけないと思っていたのに。
はーっ、と大きな溜息を吐く。仕方無いかな、最初からなんとなく予想はしてたし。
「ヴッ」
考え事をしていると、突然の衝撃に体が耐えられずそのまま尻餅。
「あ、ごめんね!」
慌てていたのか酷く焦った顔でこちらを振り返ったのは金髪のイケメンさん。そういえば女の子達が群がっていたのを見た事がある気がする。
「でも俺、今凄〜く急いでるんだ、だからゴメンねっ!!」
…なんだったんだ。走り去る背中を見つめながら首を傾げていると
「ヴッっ!!」
また尻餅をついてしまい、若干怒りも込めて見上げると
「悪りぃ!」
大きな男の子。まるでビルディングじゃないか。少し怯えながら高い位置にあり過ぎるその顔を見つめる。あ、この人もかなりのイケメン。
「あ…でもルキが来ちまうしなぁ…悪りぃ、急いでんだ!!」
そのまま、また走り去る男の子を見ながら、ゆっくり立ち上がってスカートの裾に付いた埃を払う。本当にどうしたのかな。
すっかり傷付いていたことも忘れていると
「ルキ…そんなに怒らないで…俺も、コウもユーマも…悪気が、あった訳じゃ、ないよ…」
「ほう…あれで悪気が無いと言えるのか、そうか」
黒髪の男の子に首の根っこを掴まれたこれまた黒髪の男の子が歩いてきた。
黒髪の男の子の怒りのオーラが半端じゃないのは気のせいかな。
「おい、そこの女。」
突然声を掛けられて、ビクつきながら後ろを振り返る。
「先程ここを金髪と茶髪が走り去って行かなかっただろうか」
「ふふ…そんなに、怯えなくても…ルキ、今は怒ってるけど…普段はとっても優しい…」
「よく首を掴まれた状態でそういう事を言えるな。…アズサはこういうのが好きだったな、そういえば」
「うん…痛いけど…凄く気持ちいい、よ…」
なんて会話をしている黒髪さん達を見ていると、何故かとても微笑ましくて、お互いに信頼し合ってるんだなって伝わってきて、笑みが溢れた。
「そんな事より。見なかったか」
見たのは見たけど、ここで言ってしまうと、あの走り去った男の子達が可哀想だと思ったから
「んーと…見てないですね」
「そっか…ルキ、逃げられちゃったんじゃない…?」
「ふん、別にいい。夕飯を抜きにするまでだ」
「ふふ…コウとユーマ…可哀想」
「アズサ、お前もだ」
「えー…俺も、なの…?」
一緒に住んでいるのか。って事は兄弟か何かかな?でもとにかくこの二人の会話が可愛すぎて、
「可愛い…」
思わず口に出してしまってから後悔した。二人の視線が痛い。
「何か言ったか」
「…いえ、なんでも。それより」
そう言って笑ってみる。
「その人たち、頑張って見つけて下さいね」
不思議な人達に心を癒された。