【長編】ウサギさんとストーカー
□第4話 天使の声
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あの後コウくんと別れて家に帰ってからはもう興奮しっぱなしだった。
あのスバルくんに抱えられた瞬間の感触とあの近くにあった顔を思い出し…
「ひゃーっ!!!」
と、枕に頭を押し付けて足をバタバタさせちゃったりする。
「うるさいっ!!」
ってお母さんが怒ってるけど。…だって、だってぇ!!誰だって大好きな人にあんな事されたら鼻血くらいだすよね、ね?
あんなに近くで見れたの初めてかも…もっと乗ってれば良かったかも。今度もし乗れたらずーっと乗っとこっ。あ、でもそしたら出血多量で死んじゃうかもしれない。
「ひゃーーーっ!」
また思い出してしまい、足をバタバタする。ただただそれの繰り返しで全然眠られなかった。
「へー」
「もうね、もうっ!初接近で嬉しすぎて鼻血出ちゃった!!」
「アンタね…」
呆れたようにつぶやいた夕菜ちゃん。
「あんたさりげなく無神コウの事ディスってたけど、あいつもかなりのイケメンよ?そんな事言ってたらこの学校の女子全員を敵に回すわ」
なかなか人の事、褒めない夕菜ちゃんが褒めるって事はかなりイケメンって事なはず。でも目の前のイケメンが輝きすぎてて…目に入んなかった。
そう言うと、ふぅ〜と大きく溜息をつかれた。
そして
「根っからのストーカーなのね」
そう言って苦笑した夕菜ちゃんは
元の顔が美人だからどんな顔をしても見惚れちゃうくらい格好良い。
見惚れそうになった自分の頬をペチペチと叩いて現実に引き戻す。
ストーカーとして他の人に見惚れるなんて、それがましてや同性なんて…全国のストーカーさんに申し分が立たない。いや、ストーカーしてる相手にも申し訳ないよね。
夕菜ちゃんと廊下を歩いていた時。
「あっ!!おーい、名無しさんちゃんっ♪」
女の子の軍団を掻き分けてこっちに来てくれたコウくんを見て微笑む。
そこまでして来なくても…でもちょっと嬉しかったりするのはきっと今まで男の子と関わる機会が少なかったからだ。
ほら、これが夕菜ちゃんが言ってたイケメンさんだよ?と隣を向けば、苦い顔をした夕菜ちゃんが
「ごめん、あたし嫌われたくないから先行くわ」
「え、」
なんて言って歩き出して行ってしまった夕菜ちゃんを呆然と眺めていると、
コウくんがあー、なんて頭を掻くから何か当てはまる事があったのか。
なんとなく後ろを向けば、コウくんを取り囲んでいた女の子達がまだいて、しかもこっちを凄い勢いで睨んでいた。あー、夕菜ちゃんが逃げたのってこれか…。女子の嫉妬は怖いもんね。
「あ、別に名無しさんちゃんは気にしなくて大丈夫っ☆もし名無しさんちゃんに何かしたら、俺のファンであろうと容赦しないから」
そう言ってウインクしてくれたコウくんに曖昧に頷く。
…別に私、コウくん好きな訳じゃないのにね。私にはスバルくんしか有り得ないもんね!
なんて心の中で女の子達を馬鹿にしながら、
「ありがと。移動教室だからもう行くね〜」
「うんっ、またね」
コウくんに別れを告げると、ニコニコしながら手を振り返してくれて、純粋に可愛いなって思った。
「夕菜ちゃん先行っちゃったな…」
少しダメージを受けながら廊下を一人で歩く。夕菜ちゃんが女の子達のターゲットになりたくなかったのは分かるけど…教えてくれずに一人で逃げるだなんて…仮にも親友としていかがなものか。
悶々と歩いていると突然何かにぶつかり転倒してしまう。
「あ…ごめんなさい」
飛んで行ってしまった教科書を拾う。ってかぶつかって来たのそっちなんだから拾うの手伝えよなんて思いながら見上げる。
「ヴッ……っ!!」
ごめんなさい、そう言って拾うのを手伝ってくれるとばかり思っていたから、突然された仕打ちに頭が付いていかない。
「アンタみたいな人がコウに容易く近付くんじゃないわよ」
くるくるカールした髪の毛の女の子がリーダーらしい。
そして取り巻き。そりゃそうだろう。
大好きなアイドルが自分達をほって一人の女の子の所に行ったら誰だって怒るよねー。
他人事のように考えていると「聞いてんの?」と頭を踏まれる。
痛いけど…ま、別に好きな訳じゃないし…私悪くないしこう見えて結構ポジティブピーポーだから大丈夫なんだよね。……痛いけど。痛くないとは言ってないけど。
なんか騒がしいけど…なんでこんなにも余所事で居られるのかな…ま、ポジティビーだしね。……あ、結構痛くなってきた。
「…あの、ちょっと痛いかな〜…なんて」
「はぁ?!ふざけてんのかテメェ!」
正直に言うと怒らせてしまったみたい。周りがギャーギャー言ってるのも、きっとこの状態を見てる子達の声かな。…人前でこれはさすがに私の高校生活にひびが入ってしまう。それはいけないな…そろそろ何かアクション起こすか。ってか夕菜ちゃんはどこ?親友がこんな目にあってるっつーのに…
なんて腹の中で親友に毒付いていると
突然聞こえた天使の声。
「お前ら何してる」
この声に私に馬乗りになっていた女の子達は怯えたように慌てて立ち上がって、きゃあーと逃げて散った。
あーあ、カーディガン汚れちゃった…せっかく新しいのに替えたのに…砂を払っていると、野次馬だった生徒達もだんだん散り始める。
「おい、大丈夫かお前」
バッと顔を上げると
「すっ、スッ、ス、スバ、スバルく…」
突然の登場に軽いパニックになり、慌てていると、目の前のスバルくんは怪訝そうな顔をして
「…何があったんだ」
心配そうに聞いてくれるから…もうもうっ、私のときめきマックスレボリューション止まらないっ!
そう口に出してしまうと更に怪訝そうな顔をされた。