短編集

□長叶恋
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「俺はいるけど、好きな奴」

目が眩んだ。目の前の景色が歪む。

後ろに数歩よろける。

「…そっか、そうだよね…」

勝手に両思いと思って勘違いして。

舞い上がって。

私、馬鹿みたいだ。

「…告白しちゃいなよ。シュウなら顔が整ってるし、きっとオッケーしてくれるよ」

は…?と目の前の綺麗な顔が少し歪む。

シュウが好き。ずーっと前から。
仲良くなりたくて、私の事を見て欲しくて、頑張って話し掛けた。

どれだけ鬱陶しがられても耐えて、粘って話しかけ続けて。

なんとか話は出来る様になって。

でもそれで余計に頭から離れなくなってしまって。

苦しくて、胸が痛くて張り裂けそうで。

好きで、好きで堪らなくて。

向こうはそんな感情抱いていない、そうは思っても、溢れ出てきてしまって。

静かに眠るシュウの顔を見ながら涙を堪えた事が何度あったか。

堪え切れない時もあったはず。

その度にばれちゃダメだ、ばれちゃダメだとばかり思って耐え続けた。

何度か涙が彼の顔に落ちた事があるけど…シュウは起きなかったから…

「告白とか…めんどい」

「そ、そっか…」

心の何処かで安心している私は性格悪いのかな。

彼の顔がまた少し歪む。

「…気が付かない向こうも相当鈍感女だよな」

「…そ、そんな事言っちゃ可哀想だよ…」

だんだん彼が不機嫌そうになる。

そんなに自信がないのか。

「その人は…どんな人なの…?」

伺うように聞くと、
面倒臭がりなシュウだとは思えない程、んー…と考え始めた。

「そうだなぁ…」

少しニヤリと笑うシュウ。

「鈍感で…どうしようもなく馬鹿で…俺の後ろからいっつもちょこちょこ付いて来て…そのくせ鈍臭くて、見てるこっちがいつもハラハラする…」

あぁ…そんなに愛されて。

羨ましい。でも、その立場は私には回ってこない。

「その人、こんなに想われて幸せだね」

今出来る精一杯の笑顔で。

上手く笑えてるかな、私。

「それなのにそいつは俺に見向きもしない」

ふっ、と笑ったシュウ。

好きな人の事を話している間は凄く幸せそうで、嬉しそうで。

頭の中でその子の姿を思い浮かべているのか、たまに思い出したように笑って。そんなシュウの顔を見るのは初めてで。

羨ましい。出来る事なら私がそこにいたかったなぁ。

シュウに想われていなくても、彼と過ごした時間は私にとってかけがえの無いもの。

素晴らしい時間をありがとう、シュウ。

目から雫が垂れる。

ダメ、シュウに見られちゃダメだ。

必死で下を向く。地面のアスファルトを私の涙が濡らしていく。

「ごめん、ね…私、おかしいね…」

なんで雨降ってないの、と八つ当たりは変な方向へ向かった。

ここにいちゃダメだ。

どんどん思い出してしまって、どんどん切なくなってしまうから。

顔を上げずに軽く頭を下げる。

目に溜まっていた涙がまたアスファルトを濡らす。

ごめんなさい、という意味を込めて。

そっとシュウの前から離れるーーーーーー

訳には行かず、何かに引き寄せられる。

「っっ?!」

「馬鹿」

耳元で囁かれた声が熱い。

シュウの腕の中にいる、と気付くまでにそう時間は掛からなかった。

「シュ、シュウ…っ」

「鈍感で…どうしようもない馬鹿」

「……っ」

どうして抱き締めたままでそんな事言うの。

少し期待してしまったのに。

「ちょこちょこついてきて鈍臭くていつも俺をハラハラさせる」

分かったよ。さっき聞いたよ。

何回も言う事ないじゃん。分かったから。

「…な、なんで抱き締めて…」

「バーカ」

少しふて腐れたように呟いたシュウに首を傾げる。

「鈍感で鈍臭くて、馬鹿。」

「だからっ…」

分かったから、そう言おうとするけどそれは叶わず。

唇に柔らかい物が触れたから。

「んっ…シュ、んむ…」

優しく私の唇を包むシュウの唇に身体がだんだん火照る。

なんで、どうして。それしか頭に浮かばなくて、その間にも更にシュウの舌は激しくなっていて。

「はっ…ん、」

「んむぅ…シュ、シュウ…」

しばらく貪るように唇を吸われる。
そっと糸を引きながら離れた唇。

それを見てまた更に身体の熱が上がる。

「この鈍感バカ」

「っ?!」

それって。私の事だと、思っていいの…?

「それ、って…」

まだ熱が冷めきっていない身体がまた火照る。シュウがまたキスをしたから。

「いい加減気付けよ、この馬鹿」

「っ?!っ?!」

驚き過ぎて頭が付いていかないけど、私の長い長い叶わないはずの恋がやっと実を結んだという事だけは分かった。

「うっ…うれ、嬉しい…」

今度のは悲しみの涙じゃない。喜びの涙がまた静かにアスファルトを濡らした。












お題元;確かに恋だった様

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