短編集
□崩壊の調べ
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……その儚げで、可憐で、美しい貴方を……
…この私が壊して差し上げましょう。
ふとすれ違った貴方を見て無性に欲しくなった。壊したい、この手で。そう思ったのです。
ふふ、そうやって怯えて歩けばいい。吸血鬼にとって気配を消すなど簡単な事。どれだけ探しても見つかる筈もないのに必死に辺りを見回す貴方は…あぁ…愛おしい。
すぐに
私の手に墜として差し上げましょう。
それまでは…
そうして怯えながら過ごしていてくださいね。
「何?!止めて離して!」
突然視界が暗くなった。それからしばらく気を失った。最近何か気配を感じて怯えていた。何かがいる、それは絶対に分かっているのに何処にいるのか分かんない。絶対に見つからない。何故こんな目に会ってしまったのか。
目を開くと大きな牢屋みたいな所に閉じ込められていて、目の前には男の人が立っていた。
「…な、なに……」
「あぁ…美しい…美しい物を壊す事は…」
なに…。怖い……。
「とても魅力的だと思いませんか?」
誰なの、なんなの。貴方は一体誰。なにを言っているの。怖い……。
「お願い……止めて…」
「ふふ…そうやって怯えている貴方も魅力的だ…」
この人は誰なの。なんで私の事知ってるの。
「…さぁ、穢れを知らない薔薇は…汚さなければ」
「お、お願い…止めて…」
男の人が服を脱ぎながら近付いてくる。抵抗したいのに身体が動かない。
「な、んで…」
「薬の効果です。どれだけ足掻いても…」
覆い被さってきた男を退けようともがくけど、薬の効果、というのは本当らしく身体が全く動かない。
「私からは逃げられないのですよ」
そう。酷く楽しそうに。
凍り付くような笑み。
…狂ってる。
だんだん意識が遠くなる。私の身体が穢されて行く。
「ふふ…美しいですよ…名無しさん…」
「あ、あぁ……」
涙が止まらなかった。悲しいから?悔しいから?もう自分がなんで泣いているのかも分からなくなってきた。
感情が、希望が、未来が。
…壊れていく。壊されていく。
光も何も差し込まない部屋で、ただ毎日 身体を重ねる。
身体には鞭、牙、証。傷だらけな身体。
「ふふ…名無しさん、美しいですよ…」
愛おしそうに頬を撫でる手。
「ふふ…貴方にそう言ってもらえてよかった」
「名無しさん、愛していますよ」
歪んだ笑み。狂っている笑み。
「私もです」
また口付けを交わす。
狂った笑みが。歪んだ笑みが。
狂った空間が。歪んだ感情が。
「愛しています、レイジさん」
狂った笑みで彼女はそう返す。
嬉しそうに笑う男。それを見て幸せそうに笑う彼女。
狂ってしまった時計の針は
もう二度と戻る事はない。
歪んで、狂って、歪んで、狂って。
暗闇の中に
堕ちていく。