短編集
□涙と吐息と
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私には見せない笑顔を振りまく彼。
どうしてかな、凄く胸が痛むよ。
彼は吸血鬼で、私はその餌。
分かってるよ。分かっているけれど。
この涙は、あなたを見る度に苦しくなってしまうこの心は。
変わってしまったのだろうか。
何もかもが今までと全く違うこの状況で、貴方の優しさは私を救った。
でも彼の目的はあくまでイブである女の子、ユイちゃんをおびき寄せる為。
私は単なるその道具でしかない。
そんな事は分かっていたはずなんだけれど。
ユイちゃんと並ぶ貴方を見るたびに思ってしまう。私の方がコウくんの事をよく分かってる、と。
そして彼が私に見せる笑顔からだんだん色が無くなっていったこと。
それは終わりの鐘の音。
終わりを告げるその音が響いてしまえば、憐れな灰かぶり姫はガラスの靴も残さず去らなければいけないね。
そっと今まで過ごしてきた部屋を見渡すと沢山の思い出が詰まっていた。
涙が溢れそうになるのを上を向いて耐える。
「………さようなら、コウくん」
「…?名無しさんちゃん?」
振り返るとそこには私の大好きな吸血鬼。貴方のそばで笑っているのは、私が良かった。けれどそれが叶わないなら。ここに居るのは辛いだけだ。
「…イブと、お幸せに、ね…?」
出来る限り笑ってみせるとコウくんの顔が少し歪む。
「…名無しさんちゃん、俺は、」
「ありがとう。…また会えたらいいね」
そう言って走り出す。それ以上、
貴方の口から何も聞きたく無かった。
薔薇が咲き誇る教会の中、
終わりの鐘が鳴り響いた。