短編夢

□仮面と愛の見分け方
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ある日トムは完璧ではなくなった。
魂を2つに分けたのだ。
どうやら彼は分霊箱を作るつもりらしい。
馬鹿らしい。不老不死にでもなるつもりなのだろう。不老不死は謂わば呪いだ。そもそも分霊箱など作ったところで本当の不死とはほど遠い。
そんなことも分からないとは…
「失望したわ…」

完璧ではなくなった彼にもはや興味も微塵の愛も感じない。
次の日には私達は別れていた。
私達の破局は瞬く間に学校中に広まり、しばらくは好奇の視線にさらされた。

卒業するまで、いや、してからも、私達は視線すら交えなかった。












「貴方には失望したわ」
半壊したホグワーツ
ニワトコの杖を勝ちとったハリー・ポッターとそれに敗北したヴォルデモート卿の間にアデラは降り立ってそう言った。
その場にいた全員が思わぬ乱入者に息を呑む。


――新しい敵か…?はたまた味方か…?――




ヴォルデモートはアデラを見て驚愕の表情を浮かべていた。
昔と変わらぬ若々しい体。
金糸のようなブロンドの髪は風で舞い上がり,
サラサラと流れ、白くみずみずしい肌を撫でる。
彼女こそがヴォルデモートが追い求めた不老不死の体現者だった。

ヴォルデモートの体が灰のように崩れていく。
アデラは彼の頬を両手で包んだ。
優しく。
まだ崩れぬように。
ヴォルデモートの生気のない唇に自分の唇をそっと触れさせた。
「さようならトム。愛していたわ」
そこには仮面を外した本当のアデラの微笑みがあった。
未だ見開かれたままのヴォルデモートの赤い瞳が揺らいで、渇いた唇が言葉を紡ごうと震えた瞬間、彼の体は完全に消失した。
「おやすみなさい」
ぽつりとこぼした言葉は掌の中に残る彼の霞と共に吹き上げた風にかき消された。









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