夢小説

□―序章―
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「おお、目覚めておったか。気分はどうかね?」
そう言いながら入ってきたのは長身で銀色の髭と髪を伸ばしたおじいさんだった。
「ええと、はい。良くなりました」
彼はサヤの側に姿勢良く座る黒猫に目をやった。
「その猫は随分なついているようじゃが、君の猫かね?」
「…いえ、森で会って、助けてくれたんです。あの、失礼ですが貴方は…?」
「ふむ。儂はこのホグワーツ魔法学校の校長をしておる、アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドアじゃ。ちと長いのでな、アルバスとでも呼んでくれ。禁じられた森の入り口に君が倒れていたと、ハグリットが君を抱えてきたんじゃよ」
「ハグリット?」
「ホグワーツの家畜番と森の番人をしておる心優しい者じゃ。後で顔を見せに行ってやってくれんかの。随分心配しておった。ところで、君の名前は…―」
人に聞いておいて自分が名乗り忘れてしまっていたことに気づき、慌てて頭を下げた。
「サヤ・カンザキです。助けていただきありがとうございました」
ダンブルドアはそんなサヤを見て微笑みながら頷いた。
「さて、儂はここの校長としても君にいくつか質問をせねばならんが、答えてもらえるね?」
キラキラとしたブルーの瞳が探るようにこちらの目をのぞき込んだ。
「はい。何でしょう」
「サヤ、君はどこからどうやって来たのかね?」
その質問にサヤは答えに詰まった。日本からということは確実なのだが、来たと言うより未来の日本で死んで過去のイギリスの地で蘇ったなどと果たして信じてもらえるのだろうか。おそるおそるという風に口を開いた
「信じてもらえるかどうか分かりませんが…私は日本で死んだんです。目が覚めたら、あの森の中に倒れていて、傷だらけだったのにそれも全部消えてるし……その質問に関しては私にもよく分かりません」
なんとも歯切れの悪い答え方になってしまい余計に信じてもらえないのでは…と不安が募る。
「ふむ…君は森のどの辺りで目が覚めたかわかるかの?」
「大きな湖がありました」
「おや、脚が凍傷を起こしかけておった原因がわかったわい!寒かったろうに」
とたんにダンブルドアはサヤを労る目になり頭を優しく撫でた。ダンブルドアの纏う空気の変わりように目を丸くした。
「信じてくださるのですか…!?」
「もちろん。君の目は嘘を付いていなかったからのう。ひとりで森の中はさぞ怖かったじゃろうて…」
言われて今更森の中で味わった恐怖を思い出す。じんわりと目頭が熱くなった。

突然、大きな音を立てて医務室のドアが開いた。今度はコウモリのように全身真っ黒な男性がマグカップを持って入ってきた。
「おおセブルス、よいところに来た。サヤ、こちらはセブルス・スネイプ先生。魔法薬学で教鞭をとってらっしゃる。セブルス、このこはサヤ・カンザキ儂の日本の遠縁の娘ということで今年からホグワーツに入学するこじゃ」
「初めましてサヤで―――えっ!?入学!?」
「校長!よろしいのですか、このような正体もわからぬ小娘を――!」
「セブルス、正体なら今明かしたじゃろう。儂の日本の遠縁の娘じゃとな」
ダンブルドアにいたずらっぽい笑顔を向けられてスネイプは重いため息を吐いて頭を抱えた。二人の様子を見るからにこの無茶ぶりは日常茶飯事のようで、サヤはスネイプを少しかわいそうに思った。そこではたとする。
「待ってください!この学校は何歳から入学なんですか?私18ですよ?」
そう言うと目の前の2人は「は?」と言葉が今にも聞こえてきそうな顔でサヤを凝視した。スネイプに至ってはサヤの体を上から下までじっくりと視線を動かして見た。
「いくら東洋の神秘とは言っても…君はせいぜい10歳前後にしか見えんが…」
ダンブルドアはどこから取り出しのか手鏡をサヤに渡しながらそう言った。
馬鹿な、と思いながらも不安な気持ちで恐る恐る鏡の中の自分を見る。そしてギョッとした。
確かにそこには10歳前後の自分の顔が映っていた。唖然とすると鏡の中の幼い自分も唖然とした顔を返してくる。
「わ、若返って…る??」
ダンブルドアは、ふむ…と少し思案するように空を見上げた。
「君の言ったとおり、日本で一度死んで、ホグワーツの敷地内で目が覚めたのならば、若返りもあまりおかしくはないかもしれんのう…」
ダンブルドアの暢気な言葉に、がっくりと項垂れた。もう何が起こっても驚くまい…
「そんな、ますます怪しいような奴を…」
と、スネイプはジロリとサヤを睨み付ける。
「怪しいのは否定しませんけど…」
私だって突然目の前の子供が異国で一度死んで、生きて若返ったなんて言い出したらご両親に精神病院へ連れて行くことをオススメするだろう。
スネイプは眉間の皺を濃くしたままサヤに向き直り、持っていたマグカップを差し出した。
「まあいい。校長がお決めになったことだ。飲め。凍傷に効く薬だ。明日には完治する」
全く納得していなさそうな顔で渡されたマグカップの中には抹茶色のドロッとした液体が入っていた。「あ、ありがとうございます」と、ひとまずお礼を言っておく。
一口飲むととんでもなく苦かったので一気に飲み干し、サイドテーブルに置いてあった水で流し込んだ。
ダンブルドアは空っぽになったマグカップを受け取りニッコリと微笑んだ。
「ふむ、では今日一日は安静にとマダムポンフリーも言っておったしのう、もうお休み」
「はい、なにから何まで、ありがとうございます…」
サヤは急に上まぶたが重くなり、先ほど飲んだ薬の副作用だろうとあたりをつけてその睡魔に抗うことなく意識を沈めた。
「さて、君はどうする?森へ帰るかね?」
何も言わずにベッドの端に座ってずっと話を聞いていた黒猫…リドルに声をかけたがリドルはアルバスに見向きもせずにサヤの枕元に向かい、体を丸めて寝る体制を取る。
それを見たダンブルドアは満足そうに微笑みスネイプと医務室を後にした。




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