僕たちのヒーローアカデミア
□天パに悪い奴はいないC
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『前に話したあの恩師はね…私の育ての親で、剣の師匠でもあるんだ。夢は、寺子屋の時の夢だった』
イレイザーからしたらどうでもいいこと。
でもなぜか私は話したくなった。そんな私の心を感じ取ってくれたのか、いつもならどうでもいいだのなんだなと言って話を終わらせるだろうが、そのまま話を聞いてくれた。
「どんなやつだったんだ、その恩師は」
『いつもニコニコしてて一見虫も殺せなさそうな優男なのになんか普通にお茶の間でまったりしてるついでにスーパーサイヤ人ぶっ倒せそうな感じのめちゃくちゃ強い人』
「どういう比喩だ。…そんなに強かったのか」
『あの人のげんこつ異常だから。地面にめり込むからね?初めてげんこつもらった時意識吹っ飛びそうになったもん』
果たしてそれはげんこつと言うのだろうか。
『楽しかったなぁ、あの頃は…』
なんだかんだ言って、みんな笑顔だったし。
どんなに暴れまわろうと、あの人にげんこつ落とされようと最後にはただ笑っていた。
『銀時…ヅラ…晋助…。元気にしてるかなぁ』
「お前の兄貴と悪友だろ。お前と長年の付き合いならそう簡単には死なねぇに決まってる」
『いやまぁ確かにあの3人車に轢かれようと生きるだろうけどもね。…晋助は轢かれるような事はしないか。むしろ轢く側か(悪意を持って)』
「そういや、その悪友2人は何やってんだ?銀時ってのは確か万事屋だろ」
まさか覚えて居るとは思わなかったので少し私は驚いた。少なからず、イレイザーは私の過去に興味を持っていてくれたようだ。そのことが嬉しくて笑った。イレイザーはマイクから聞いたはずだが、マイクのことだ。大雑把にしか話してないのだろう。だから詳しくは知らないのかもしれない。
『2人は今テロリストしてる』
「…………は?」
『いやだから、テロリスト』
「……お前にはマシな友人いねぇのか」
『てかもうあれ友人って呼んでいいのかさえも謎なレベルだからなんとも』
テロリスト。この世界でいうヴィランだ。
そんな奴が幼馴染だというのだからイレイザーとしてはふざけんな、と言いたいところだろう。
『言ったろ、私たちは昔英雄だった。でも時代の流れに流されて、英雄はいつか反逆者となったの。んでそのままその2人はテロリストになったわけ。一応私や銀ちゃんも捕縛対象ではあったんだけどね』
「時代ってのは……時ってのは、自身の一番の敵になる時もある。それが一番怖ェな」
全くだ。時間というのはとても残酷なんだ。
私は、それをよく知っている。
『あー、でももう1人いるな。友達っつーか、なんというか』
「そいつは昔からの仲じゃないのか?」
『違うよ。攘夷戦争に参加する時あたりに知り合った奴。坂本辰馬ってんだけど…今は確かなんか貿易会社の社長してたっけな』
「……いるじゃねぇか、マシな奴」
『背負ってる肩書きだけはな?実際にあいつと会ったらイレイザー確実にあいつぶっ飛ばしたいって言うからな?』
私でさえも殴り飛ばしたくなるもん。
いやごめんこれ嘘。殴り飛ばしたくなるじゃなくて普通に殴り飛ばしてる。
会うたび確実に一発は殴ってる自信あるよ?私。
「あと前から思ってたが…お前のその悪友だのなんだの、この世界で言う幕末で名を轟かせる志士たちと名前似てるよな」
『えー?』
「今言った坂本辰馬だかって奴は坂本龍馬だろ?他の奴らの名前は?」
『桂小太郎に、高杉晋助』
「桂小五郎に高杉晋作。桂はのちの木戸孝允だがな。ていうかほら見ろ、ほぼ名前そのまんまじゃねぇか」
い、言われてみれば確かに…。
「……お前そんな凄い人たちと腐れ縁だなんだって言ってるのか?贅沢もいいとこだ。歴史好きな奴からしたらもう死んでもいいレベルだぞ」
『い、いやいやいや!ま、まぁ、たたたた確かに?この世界ではそんだけ凄い奴らだけどさ?うちのあいつらは違う違う。そんな凄くないから。ただのバカの集まりだからッ!?』
「因みに、そのお前の恩師。名前は?」
『よ、吉田松陽…』
「どう考えてもそりゃ吉田松陰だろうが」
私の知り合い、なんかこの世界では超ゴールデンなメンバーなんですけどォォォ!!!?
嘘でしょォォォ!?!?
ってか今思い出したけど、この世界じゃヅラのやつ攘夷成功してるじゃあねぇかァァァァァ!!
晋助病死しちゃってるけどもねェェェェ!?
きっとイレイザーからしたら私が1人で変顔してる感じに見えるだろうが、なりふり構っていられるほど今の私にはそんな余裕はなかった。
『あ"………』
「今度はなんだ」
『あ、あのぉ……しっ、しししっ、真選組って…』
「新選組?やっぱそこ辺りとも知り合いなのか」
『マジかァァ!!あんの腐れポリ公共もやっぱそうだよなァァァ!!なんか歴史好きと言えばコレッ☆みたいな感じでよく胸糞悪い言葉聞くなぁって思ってたらやっぱそれかァァァァァ!!!』
「夜中に叫ぶな」
『ぐへあっ!!』
ヘッドロックを決められた。苦しいです。
ごめんなさい。ちょっと荒ぶる心のままに叫んじゃっただけなんです。ごめんなさい。
「あとそろそろ部屋に戻れ。明日から本格的な合宿だ。死ぬほど辛いことやるから早く休め」
『……あんたがそう言うならマジで死人出るんじゃねーの?でもまぁ、確かに時間も遅くなってるし、私部屋に帰る。騒がしくしてごめん。あと簡単に手当とかしてくれてありがとねイレイザー』
「あぁ。気をつけて帰れよ」
『また明日』
「おう」
簡単な荷物を抱え、私はそこを後にした。
廊下を歩きながら私はいろいろと知ってしまった大きな事柄に内心ショックを受けつつ、肩を落とすようにトボトボと歩く。
…でもさぁ、あの人は兎も角、この世界ではあのバカ共偉人じゃん?私の知ってるあいつら…
どこが偉人?
絶対偉人の"偉"って絶対こっちの"異"でしょ。
むしろ奇でも良いんじゃね?
『はぁ…。あいつらのこと考えてたら頭、痛くなってきた。早く部屋行って寝よう』
「あっ、真梨乃さん!!」
『ん?あれま。百じゃん、どしたの?』
「よかった!無事だったのですね!」
『いや風呂場のあれ絶対無事とは言わないと思うんだけどなぁ…』
顔をひきつらせていれば百の傍から梅雨ちゃんも出てきた。居たのか。
「真梨乃ちゃん、大丈夫かしら?私が思わず投げちゃったばかりに」
『あー、大丈夫。ていうか投げちゃったばかりにって何よ…。あんな過激なうっかりされちゃ私だって身がもたないからね。真梨乃さん無敵じゃないからね。…んで、梅雨ちゃんも百もここで何してんの?』
「自動販売機に飲み物買いに来たんですの」
「真梨乃ちゃんも一緒に部屋に帰りましょう?」
『あー、うん。わかった』
そして私たちはゆっくりと自分たちにあてがわれた部屋に着く。そのまま安らかに眠りにつけると思っていた自分が浅はかだった。
すっかり忘れていたのだ。
私の周りにいるのは、恋に飢えた思春期の子供たちであることを。
「真梨乃ちゃんいないの!?好きな人!」
『ああああああ!うるせぇうるせぇ!いいから眠らせろォォォォォ!!』
「いいえッ!お話ししてからじゃないと眠らせませんわッ!!」
『やぁぁぁかぁぁぁまぁぁぁぁしィィィィィイ!!私はお風呂の事件のせいですげぇ疲れてんだよッ!あと記憶の奥底に眠ってるクソヤローたちのせいで頭痛までしちゃってんですぅッ!!』
これぞ、まさに生き地獄だ。
「真梨乃ちゃん布団に入らせないぞぉー!」
『ぐはぁっ!?透ちゃん!?今あからさまに私のこと踏んだよね!?てか服は!?なんか見えないんだけどッ!』
「真梨乃ちゃん踏み放題だぁー!」
『何やってんのお前ェェェェ!!ぐへぁっ!!いだだだだ!!私うどんじゃないからッ!?コシなんかでないから踏むのやめんかァァァァァい!!!』
頼みます、お願い誰か助けて。
私死にそうなんだけど。
仲間内に殺されそうなんですけど。
やっと眠れたのは、みんながただ騒ぎ疲れてぶっ倒れた後だった。
(もうなんなの…。J Kって化け物かよ…)