僕たちのヒーローアカデミア
□天パに悪い奴はいないC
1ページ/36ページ
私たち学生は、夏休みへと突入した。他の学生からしたら待ちに待った夢のような夏休み。
しかし私たちからしたら単なる地獄への入り口。
今日から林間合宿がスタートする。
集合場所の雄英敷地内にあるバス乗り場にヒーロー科1年の2組が集まった。
ああ、暑い。暑い。
溶けるよ本気でマジで溶ける…。
「真梨乃ちゃんしっかりして。合宿行く前に終わりそうよ。頑張って」
『梅雨ちゃん…溶ける…』
「頑張るのよ真梨乃ちゃん」
なんか今日暑いって…。
やる気がさらに削がれるじゃないかぁ!!
そんなこんなで怠けていると…
「え?A組補習いるの?つまり赤点取った人がいるってこと!?ええ!?おかしくない!?おかしくない!?A組はB組よりずっと優秀なハズなのにぃ!?あれれれれぇ!?」
嫌味たっぷりで煽りにかかるのはB組の物間。
この物間は幾度となく私たちA組に突っかかってくるらしい。私はまだこれが初対面(ちゃんと確認したのは)なのでなんかヤベェやついるな、という感じに思った。すると誰かに背中を押される。そのため私はA組のみんなよりB組側に一歩前に出た。
『え?』
「あれれ?君は確か体育祭で優勝した子だよね。名前は…なんだっけなぁ?ごめんごめん、印象薄くて覚えてないやー!!」
『あ、いえ。私もあんたの名前知らないんで』
「うわぁー、流石はA組だ!その高飛車とことか本当嫌だねぇ。格下の名前なんか覚えてないってぇ?体育祭で優勝したからってあんまり天狗にならない方がいいよ」
『天狗って後天性でなるんだぁ。真梨乃さん知らなかったわー。知ってた?焦凍。私いつか肌赤くなって鼻が伸びるらしい』
「いや知らない。俺も初耳だな。てか肌赤くなって鼻伸びるのか?あんまりそんな姿の真梨乃は見たく無いんだがな」
『いやー、また1つ知識増えたなぁ』
「そうだな」
「そういう意味じゃないんだけど」
天然に言わせれば物間の嫌味など痛くもかゆくもない。むしろ嫌味を嫌味として捉えていないのだ。真梨乃に至っては物間を超える嫌味を言うことに長けてる。その為真梨乃も屁でもない。
『てかそんなにうちのクラス嫌い?』
「もちろん!」
『ふーん。んじゃここはお近づきの印に君の真似をしてあげよう』
「は?」
『あれれぇ!?B組ってA組よりやっぱ影薄いねぇ!?特に君なんかもう話しかけられないと目にすら映らないや!!あ、いや話しかけられてもちょっとどこにいるかわかんないかなっ!』
「なっっ!?」
「ちょっと真梨乃!?」
近くにいた出久はギョッ、とする。
それに反するように私は高らかに笑っているが。
『たっくよ…。お前な、ヒーロー目指してんならうちらに噛み付く暇あんの?そんな余裕を作るくらいなら強くなるために鍛錬でもしてろ』
「…ムカつくな、お前」
『結構結構』
私はただヘラヘラ笑っていた。物間の嫌味を本当に屁とも感じていなかったためだ。それに反し物間は苦虫を噛んだような顔をする。すると隣りで出久がごめんね!とペコペコ謝ってた。
喧嘩売ってきたのそっちだから謝る必要ないと思うんだけどなぁ?
「もう相変わらずだなぁ。でもなんというか、真梨乃流石だね…。轟くんをコマに使ったりするなんて」
『なんだよ、出久。人間利用できるもの全部利用しとけ。じゃないとうまく生きていけないぞー』
「なんか悪役みたいなこと言わないでよ…」
『悪役じゃねーだろ』
人間本当にそうなんだからな。
そんなことをしていると後ろからイレイザーと飯田くんの呼ぶ声がした。
「お前らなにやってんだ、早く乗れ」
「草摩くんたち!相澤先生を待たせるのは良くない!草摩くんが被害を被る!」
『私だけかオイ!!!』
振り向けばみんな荷物を荷台に入れながら順にバスへ乗り込んでいた。
「あ、うん!!今行く!!」
「ああ、今行く。真梨乃も荷物持って行くぞ」
『あー、はいはい。たっく…こんなあっつい日でも元気だなメガネは…』
「今メガネって言ったの聞こえてるぞ真梨乃くん!!というか早く君たち来たまえ!!」
うるせーな。メガネめ。
なんて心の中で毒付きつつも出久たちと一緒にバスに乗り込む。みんなそれぞれ好きなところに座って行く。どうやら私が最後だったようだ。
さて私はどこに座ろうか、と座席を見ているとパシリと腕を掴まれた。最前列のやつに。
最前列など、教員しか座らない。
そう、私の腕を掴んだのはイレイザーだ。
『…なんじゃ』
「お前はここだ」
『なんでだ』
「もう後ろは空いてないからだ」
そのまま、ぐいぐいと引っ張られてイレイザーの隣に着席させられた。力強すぎだろ。
『なら補助席にでも座ってみんなとのバス時間を楽しもうじゃないか』
「強化合宿に行くのにお遊び気分か?」
『…はぁぁ。なんだよもう。寂しいから一緒に座ってって言えねーのかお前は』
「そんなに絞め殺されたいのかお前は」
『ぐぇっ!!!』
イレイザーは躊躇うことなく私にヘッドロックを決めて来た。見事に私の首は締められた。
みんなが座るところから見えないからといって担任が仮にも自分の担当するクラスの生徒の首絞めるってどうなんですか!?ねぇどうなの!?
そんな私の思いも虚しくバスは出発した。
『バスなんか久しぶりだ』
「そうか」
私の独り言に律儀にイレイザーは相槌を打ってくれた。しかしなんだ。イレイザーの顔がなんだか険しい。まぁ、大方その理由は後ろのみんながめちゃくちゃうるさいからだろう。いつものように怒るのかと思いきや、フッといつもの無表情に戻る。
え、な、なんだ?
『怒らないの?』
「騒いでいられるのは今のうちだからな。好きなだけ騒がせておく」
『…私としては聞き捨てならないんですけどぉ』
「なら今のうちに無駄な体力使わないで寝ておけ」
『……嫌な予感しかしねーな』
この嫌な予感は、やはり的中することとなる。