短編小説

□『5回目』 微
1ページ/1ページ

 もうそろそろ休憩時間も終わるので、テニスコートに向かっていた時だ。
「先輩」
俯いて歩いていた俺を誰かが呼び止めた。
正体を確認するように顔を上げれば、そこには生意気な笑みを浮かべている越前リョーマの姿があった。
「先輩、可哀相じゃないっすか」
「何のことだい?」
先輩というのはどうやら俺のことではなく、後ろにいた乾先輩のようだった。
彼らは俺の存在を無視しているかのように、会話を続けている。
俺は、「関わるのはごめん」というように、足早にその場を去ろうとした…が。
「海堂先輩、何知らん顔してるんすか?」
「う…っ」
すかさず越前に呼び止められてしまい、俺は足を止めざるを得なかった。
「先輩のこと話してるんだから、知らん顔はないでしょ?」
「お、俺は知らねぇっ」
ずいっと顔を近付けられて、不覚にもうろたえてしまった。
「ふーん…」
何かを企むような顔をして、俺を見上げる。
負けないように、ギロっと睨めば、奴はわざとらしい態度で両手を広げて視線を乾先輩へと戻した。
「で、乾先輩…。さっきの続きだけど」
「何だったかな?」
「惚けちゃって白々しい」
顔に笑顔を浮かべながら、俺を挟んで会話するのは止めて欲しい。
間にはさまれた俺としては、居たたまれないことこの上なしだ。
「…惚けるんだったら俺が何をしようとも口は出せないよね?」
「何をするって言うんだ?」
「こーいうこと」
越前はそう言うと、俺に視線を戻して、そのあと下半身に視線を移し…。
やばいと思ったときにはもう遅くて、意外に器用な指先にズボン越しに触られていた。
何処というのは言わずもがな。
「ぁ…っ」
「おいっ!」
乾先輩が止めたときにはもう取り返しのつかないことになっしまって、俺はその場にしゃがみ込むことしか出来なかった。
「5回目」
「は?」
「これで5回目だよね、海堂先輩」
そんな越前の言葉にもただ赤くなることしか出来ない。
「海堂!?」
隣で乾先輩は怒ったように俺に尋いてくるけど、答えられるはずがなかった。
「んじゃ、そろそろ休憩終わると思うんで。部長には上手に言い訳しときますよ」
俺って先輩思いな後輩だな〜なんて呟きながらコートに向かっていく越前に心の中で指を立てながら、完璧に怒ってしまっている先輩への言い訳を俺は頭の中で考えていた。

------------------------

よろしければ↓


2004.02.14 執筆
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ