共和国の記録

□出会い
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仕事の終わりを告げる鐘が一つ鳴った。納品しきれなかった木の実――チグリを持ち帰ろうとする私に、キャサリーンが話しかけてきた。


「何やってるの?」

「これを家の倉庫にしまおうと思って……その後に訓練にでも行こうかな。」

「ええ?明日休みなのに?」

「明日休みだからだよ。それに、家に帰ったって、私一人で誰も居ないから。」

「いいねー……私は両親も兄さんも過保護だから、羨ましいよ。」

私にはそっちの方が羨ましいけれど……そう思ったけれど、心底嫌そうに溜め息を吐くキャサリーンを見たら、言えなくなってしまった。


父親と母親、そして兄を持つキャサリーン。去年成人したばかりの彼女は、家族の中で最も可愛がられている存在なのだろう。

この前家に遊びに行った時、ご両親は不在でお会いできなかったけど、兄のチャーリー・ポーさんとお話しする事ができた。キャサリーンと同じ髪色をした、切れ長の目が印象的な男の人。彼もバハウルグで働いている為、仕事中によく声をかけてくれる。キャサリーンと一緒で、明るく積極的な性格みたい。


「それじゃあ、無理しない程度に頑張ってね。」

「ええ、ありがとう。」

「また時間があったら家に来てよ。今度こそ両親と会わせてあげる。」

「うん、楽しみにしてる。」

可愛らしく笑いながら、駆け足で帰っていくキャサリーンを見送る。そのすぐ後に、仕事場に設けられた水道で水を少し飲んでから、私も一度帰宅した。

家が仕事場に近くて、本当に良かった。小さなチグリと言えど、家まで持ち帰るのは大変だし、それに疲れたらすぐに家で休めると言うのも魅力的だ。シャイアルさんに感謝しないと。


一休みしたところで、訓練に出掛ける事にした。少しは足しになるだろうと、今日持って帰ってきたチグリを使ったお弁当――野菜炒めも一緒に持って。
 
訓練内容は……砂浜ダッシュ。コークではスピードが基本だと、何かで読んだ気がする。多分、ここへ来る時に私が教科書にしていた、あのパンフレットに書いてあったんだろう。そのスピードを上げるには、砂浜ダッシュをするといい。砂浜ダッシュをするには、バスの浜がいいらしい……頭の中で目的を明確にしたところで、家を出た。


(わ……寒い。)

プルト共和国には、雨や雪が降り、四季が存在する。北国育ちの私には、これからどんな季節が訪れるのか、楽しみで仕方がなかった。今は、年が明けたばかりで、まだ朝晩冷え込む。この程度の冷えは慣れているけれど、暖かい室内から出たばかりの体には堪える。それを誤魔化すように、駆け足でバスの浜へと向かった。

――夜のバスの浜は、静かに波音を響かせていた。月明かりに照らされて、幻想的に煌めく白い砂浜、青い海。デートスポットとして有名なのも頷ける美しさだ。


(よし、やるか!)

野菜炒めをぺろりと平らげて、水を飲む。体調を整えたところで、浜辺を走り出した。
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