っポイ!Long(万里)

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翌朝、学校へ向かう途中に合流したいつものメンバーである、花島田や鷹丘から昨日の話を聞かせろと言われ、2人は簡潔に説明した。
騒ぎ立てるのも今はよくないと、この事を知るのはごく一部。学校側も騒ぎが大きくならない様に配慮していた。

昨日の事を知る一部の生徒である、酒井田と矢野には希の状態を、他の生徒に知られない様報告した。


ULTRA BLUE 



今日は1日がとても長く感じた授業も終わり、平と万里は急いで病院へと向かった。
病室には、母親の昭が付き添っており、2人の顔を見るとにっこりほほ笑んだ。

「万ちゃん平ちゃん早かったわね」
「おかーさん、希は?」
「平ちゃん、病院では静かにね」

過去にも大声等で病院で迷惑をかけた前例がある平に昭は「めっ」と釘を差し

「おかー…さん?」

うとうとしていたらしい希の声が、昭の後ろから聞こえてきた。
万里がベッドへそっち近づけば、目をトロンとさせた希が、万里を顔を捉え
昨日よりも少し良い顔色の希がそっと微笑んだ。

「あ・・・万ちゃ・・ん」
「うん。あ、平もいるよ」
「ほん・と・・だ」


家の事など忙しい昭に自分たちが付き添っているからと声をかけ
自宅へと帰ってもらい、2人は病室にある椅子に座った。

「希、大丈夫?って、大丈夫じゃないよな」
「んー…でも大丈夫だよ」
「痛いでしょ?」

何にもすることないから退屈で〜と笑いながら言うが
まだ自由に動かせず、痛みもある身体
そのことは言わずとも痛いほどわかるのに、本人は平気だと微笑む。

「あ、万ちゃん、平ちゃん」
「なに?」
「昨日…ごめんね。迷惑かけちゃった」



まさか、あんなことになるとは思っていなかった。
動けなくなって、どれくらい経過したのか
意識を失っていた時に聞こえた、聞きなれた声
自分を呼ぶ声・・・
その声に安堵し、また意識を手放した次に目を覚ました時には
万里の悲しげな表情。

あの時、この2人が自分を探しに来てくれなければ
自分はどうなっていたのだろうと想像すると・・・怖かった。

「謝ることないっそれよりこっちこそごめん!」
「もうちょっと早く気付けばよかった・・・ごめんね」
「なんで2人が謝るの?2人が探してくれなかったら・・・」

「謝らないで」と少し涙を浮かべる希の表情に
2人は「ごめん」と呟けば、「また言った」と今度は少し頬を緩めた。

「じゃ、お互い謝るのはナシってコトで」
ね?とウインクすれば、平は「了解」と、希が微笑みながらコクンと頷いた。



****


「昨日の事は…このまま…」

希の怪我の原因は、本人に確認してからということで
何が起こったのかは一旦伏せてある状況であることを聞いた希は
きっぱり「騒ぎを大きくしたくない」と言った。
おそらくそういう答えが返ってくるだろうと予測していた万里が
医務室で救急車を呼ぶ手配をすることになった時に学校側へ伝えていた。
幸い救急車も学校へ呼んだ際も配慮してもらい他の生徒には気づかれずにいた。


「でもっ!希をこんなメに合わせて――」
「これは私の所為だから良いの」

バランスを崩して倉庫に倒れこんだのは、倉庫内の物を倒したのも
自分の所為だからという姿勢の希の態度に平はかなり不満だった。
もちろん万里も希のこの怪我を見て不満がないわけではないが…
希の気持ちも理解できたので、その不満はぐっと抑えた。

「平、希のゆーとーりにしよ」
「だってっ!」
「いーから・・・」

「さっき昭さんから言われただろ?」と大きな声になる平を宥め
希へ目線を移した。

「希ちゃんが言う通りにするよ…それでいい?」
「ん…ありがと。万ちゃん」
「…希がそーゆーなら…うん…わかった…」
「…平ちゃんもありがと」

まだ完全には納得いかないが、本人や万里がそう言うので
仕方ないと平は渋々希の意見を飲むことにした。

そんな平に、ごめんねと心の中で謝りながらそっと微笑む。
彼の妹を心配する気持ちは十分伝わった。たぶん反対の立場だったら…
平でも、他の兄姉でも…万里だったとしても、同じ気持ちになっただろう。

そんなことを考えていたら、そっと万里の手が希の髪を優しく撫でた。
万里の顔を見れば、おそらく考えていたことがばれているのだろう。
微笑みながら小さくうなずいた。


部屋のノック音と共に現れた担当看護師が様子を見に来室し
その後に続く様に天野家の長男である和が現れた。

「あ、和兄だ。どしたの?」

一番先に気付いた万里が尋ねれば、今日の希の付き添いは
自分がするからと言った。昭とそういう話になっていると。

「ほらお前らはさっさと帰れ。かーさんが夕食作って待ってるぞ」
「えーもうちょっといる〜」
「平…成に夕食全部食われるぞ?」

いいのか?とニヤリとすれば、慌てたように立ち上がる。
それは冗談ではない…本気で食べられる!と焦った。
実際、昔から平と成の食事の奪い合いは日常の出来事だ。

「ばっ万里っ!行くぞっ!」

焦る平に引っ張られるように、万里も病室を後にした。
バタバタと出て行った2人・・・正確には平だが、そんな2人を見て
「相変わらずだなぁ」と希はクスリ…と笑った。

2人と入れ替わり、和が先ほどまで万里が座っていた椅子に座り
希の頭をやさしく撫でた。

「和兄…付き添いって…泊まるの?」
「ああ」

昨年、とある大学受験日に人助けをした為に受験できなかった為
受かっていた他の大学へ行くより来年再受験を選んだ兄。
また1年受験勉強が続く予備校生だ。

「べんきょ…あるでしょ?」
「ここでも勉強はできるさ。気にしなくていいよ」
「付き添いいらないよ?へーき…寝てるだけだし、何かあったらナースコールするし」
「いいから気にすんな」
「でも〜」
「こういう時位もっと甘えろ」

な?と頭を軽くポンポンと叩く。
幼いころから長男として面倒を見てきたが
真ん中2人は本当に手のかかる弟妹だった。
それに対して希は昔から一番手のかからない末っ子だったから
お願いされたり頼られたりする時は大概希の言う通りにしていた。
…希に対して自分が甘いのは
可愛い『末っ子』という贔屓目もあったかもしれないが。

「ん…わかった」
「よし」
「じゃ…早速…ジュース飲みたいなぁ。100%のやつ…」
「りょーかい。じゃ待ってろよ」
「和兄ぃ〜大好き」
「はいはい。俺も希大好きだよ」

だからおとなしく待ってろよと席を立ち、自販機へと向かった。
つくづく甘いよな…と苦笑いしながら。
普段あまり甘えないから、全く苦にならないが…
真ん中の2人の弟妹だったとしても、この状況だったら
何だかんだ言いながら同じことをしてそうだな。と
自販機のボタンを押しながらそう思った。

自分で飲むとペットボトルを受け取ったが
自分では上体を起こすのも辛そうな希の背を支えて少し起し
誤嚥しない様にコップに移しゆっくり飲ませる。

運ばれてきた病院食はいらないと言うので断り、のどが渇いていたのか
ペットボトルの半分ほど飲んだところでウトウトし始めたので寝かせる。

飲ませていた時に希に触れていた身体は、いつもより熱い。
熱が出ている所為もあって食事は食べられないが、ジュースは飲みたかったのか。
素直に言えば良いのにな…と、希の寝顔を見つめ、そっと布団をかけ直した。
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