アルスラーン戦記原作沿い(アニメT期)

□第11章  ペシャワールへの道
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アルスラーン戦記


第11章 ペシャワールへの道





  パルス歴320年 12月
  大司祭直属聖騎士団、エクバターナへ入城。
  王都を覆う闇は、一層深まっていく。






エクバターナの宮殿の一室にて、パルス国・万騎長サームが永い眠りより目を覚ましていた。


―――なぜ俺は生かされたのか…


音もなく目の前に、自分にとどめを刺したはずの銀仮面。
その正体を知り、信じられないとただ驚くばかりであった。


「あ、あなたは…」

吹き出す汗が、頬を伝う。

「俺こそが先王オスロエス嫡子であり、パルスの正統の王だ」

ヒルメスは淡々と言った。

「16年前、火事で亡くなったはずでは…」
「よく考えることだ。お前の真の主は誰なのかを」

そう言い残して、部屋から去るの、サームは言葉を失ったまま
見送っていた。



***



アルスラーン一行は、敵の伏兵を避けつつ、パルス最大兵力を残すペシャワール城塞を目指していた。

馬で駆け抜ける最中、アルスラーンは昨晩ナルサスの言葉を思い出していた。



―――考え無しの改革では意味がない。真に良き君主とは…大道とは…



「アルスラーン、あまり急ぎすぎると馬が疲れてしまうわよ?」
「あ、姉上」
「名無しさん様の言われる通りです。まだ先は長ごうございます」

アルスラーンの左手に居た名無しさんが、また右手にいるエラムが声をかけた。

「うん…なぁエラム、エラムは将来どのような道を歩みたいと思っている?」
「え…?」

突然の質問にエラムは驚いた。

「…宰相になって、国を動かしたいとか、軍の指揮者になりたいとか…」

目線を落とし気味にアルスラーンは言った。

「私の将来は、ナルサス様が決めてくださいます。それまではナルサス様の元で勉学に励むのみです」

前をしっかり見て言うエラムに、「そうか…」とアルスラーンは小さく返した。

「殿下には、名無しさん様やナルサス様、ダリューン様が付いておられるのですから」
「そうだな、私には皆がついている…エラムにもずいぶんと助けてもらっている」

ありがとうと素直に礼を言えば、自分に対してそのような言葉が駆けられるとは予想していなかったエラムは驚いたものの「私は従者として当然の事をしているだけです。殿下がお気になさることほどではありません」と少々ぶっきらぼうに言いつつ、馬のスピードをあげて先へと進んでいった。


ここはエラムと2人で話させようと静かにスピードを下げて後方へと下がっていっていた名無しさんは、隣に「どうかなさいましたか?」と尋ねて来たダリューンに「なんでもない」と2人で会話させようとしたことを目で合図しそしてそれを理解したダリューンと共に前方の2人を見守っていた。

同じくらいの年頃のエラムと話せる機会は、宮殿ではなかった。
アルスラーンに、話が出来る友が出来たことを自分の事の様に嬉しく思っていた。

そんな名無しさんを、ダリューンは黙って見守っていたのだった。




一方、「妙な王子様だなぁ」とギーヴが言うのを、ナルサスは「ほう」と聞いていた。

「エラムは殿下にとっては臣下であるあんたの、さらにただの従者だ。なんで気にかけるんだか…」
「確かに王族らしくないな。殿下は…」

ナルサスの言葉に腑に落ちない表情のギーヴ。でもよく考えればここの王女様もそうだな…と思い直した。

「俺が知っている王族ってのは、臣下や民がどうなろうとも関係ないってヤツらばかりだったけどな…」



***



「ジン(精霊)たちよ。静まれ。ハディード、ハディード」

陽も落ち、湖のある盛で馬を休ませようとしていた一行は、ファランギースより「ジンたちの機嫌が悪うございます。血を欲するものが近くにいるようです」との言葉に、追手が迫っていると判断した。

実際追手がかなり近くまで来ており、アルスラーン一行は休憩をとることもままならなず、再び馬を走らせる。





暗い森の中、ダリューンがアルスラーンに言った。

「殿下、名無しさん様、先にお行きください。ここは引き受けます」
「えっ!」
「でも…」

一礼し、来た道を戻るダリューンの姿はあっという間に見えなくなった。

「ダリューン!」
「殿下、それに名無しさん様、ダリューンならば大丈夫です。我々は先に進みましょう」

ナルサスがダリューンの後を追おうとしたアルスラーンを引き留めた。

「…わかった」


先へ進み始めたところで、敵の矢が飛んでくる。
矢を剣で払いながら「殿下と名無しさん様の護衛を再優先にし、森を突っ切れ!とナルサスは支持を出した。


月明りが唯一のたよりの中、アルスラーンが森を駆け抜ける。
立ち止まり、後ろを振り返れば、そこにいたのはエラムとギーヴだけ。
どうやら盛ではぐれた様だ。

少し待とうか、どうすべきかと思ったが、追手がどこまで追ってきて居るのかわからない状況。「先へ進みましょう!」というエラムに従った。

「必ず、ペシャワールで合流できます」



***



追手を払いつつ、ペシャワールへ向かっていたダリューンは、次々と迫ってくる兵を1人で相手にしていた。
目の前の1人を相手にしていれば、背後から兵が現れる。
「もらったぁ!」と剣を振りかざした所で、どこからか矢が飛んできてその兵に命中した。
矢野飛んできた方が気を見れば「ダリューン!」と名を呼ぶ聞きなれた声が近づいた。

「ここにいたのね。良かった!」
「名無しさん様!?どうしてこちらに?」

弓を抱えた名無しさんの姿に、ダリューンは驚いた。

「1人では大変だもの。…足手まといにはならないから…たぶん」
「しかし…」
「一緒にペシャワールに行こう、ダリューン」

それに私1人じゃないのよ?と微笑む名無しさんの背後から「1人で多勢を相手にするのは苦しかろうと助太刀に参ったが…名無しさん様が先に参られていらっしゃった」とダリューンの元にファランギースが現れた。

まさか2人が現れるとは思ってもみなかったダリューンは驚きつつも2人の心遣いに感謝し、またこちらに近づく気配にはっとし、他の2人も気付き、3人は互いの顔を見合わせ武器を構えた。

「名無しさん様、どうかくれぐれも御身だけは…危険だと判断された時は必ずお逃げください」
「わかった」

「ダリューンの重荷にはならないようにする」と聞いたダリューンは重荷ではないと思いつつもここで話を長引かせるのは得策ではないと頷くだけにし、敵に向かって愛馬シャブラングを駆けさせた。
その後を名無しさんとファランギースが続いた。

ダリューンが近距離で長柄でなぎ倒し、ファランギースと名無しさんが長距離で弓を放つ。「強すぎる…」と恐れを為した兵たちが逃げ出そうとした時、現れたのはルシタニア側に就いた万騎長カーラーンの息子・ザンデであった。

「何たるザマか!!この腑抜けどもが!どけぇっ!!」

自身の持つ重量のある武器をその腕力を見せつけるかのように振りかざし逃げ惑う兵を蹴散らした。

「ダリューン!!」
「あれは…カーラーンの…息子、ザンデ…?」

以前、王宮でカーラーンと一緒に居るのを見かけたことがあったのを名無しさんはその声、その後に見えた姿で思い出した。

「殺された父・カーラーンの無念、このザンデが晴らすっ」

ザンデがダリューンに向かって全力で向かってくるのをファランギースが止めようと矢を放つも「邪魔をするなぁ!」と武器を振り、避けたものの、その風圧にバランスを崩して落馬した。

「ファランギース!」
「名無しさん様、後ろへお下がりください」

危険だとダリューンは後方にいた名無しさんに聞こえる声で伝え自分は1歩前に出る。
ザンデの目にはダリューンが映っているのみで外套で顔を隠すもう一人の敵――名無しさんは入っていなかった。

ザンデはダリューンに向かって武器を振り下ろす。互いの武器が激しくぶつかり合った。


ザンデのとぶつかりあるダリューンは、力ずくでぶつかるザンデに内心驚いていた。
こちらも全力で受け止めなければ、一瞬でも気を緩めようものならばその腕力で押されてしまう。

「何という力だ…」



一方名無しさんはザンデをダリューンに託し、ファランギースが落馬した際着地したであろう、低い木々が生い茂る場所へと向かっていた。

「ファランギース!大丈夫?」
「はい」

ファランギースの無事を確認した名無しさんは、弓をザンデに向けて構える。
弓はダリューンに切かかろうとしていた時、ザンデの馬に命中し、ザンデは落馬した。

そこへダリューンが一撃を加え、それを何とか防いだザンデだったが、その勢いに起き上がっていた体が再び後ろへ倒れこみ背が地面に激しく叩きつけられた。

そのすきに名無しさんとファランギースはダリューンと共にその場を急いで後にしたのだった。




しばらく馬を走らせた後、ファランギースはダリューンに言った。

「ダリューン卿、あの男を殺すこと、躊躇したな」
「うむ…落馬した者を追い打ちで殺したことはなくてな」

ダリューンがそう答えれば「甘いのぅお主」とファランギースは言った。

「俺もそう思う…」

その会話を後ろで聞いていた名無しさんは「それがダリューンなのよ」とそういうところが良いのと言う様にファランギースに微笑んだ。


ダリューンは幾万かの敵を倒してしまう屈強の戦士だ。
だが冷酷な男ではないのだ。と…
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