小説

□君のいるコンビニで。
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酔っ払いは嫌いだ。絡んでくるのがめんどうだ。
そして今、俺は酔っ払いに絡まれている。
何故こうなったのかは、少し前に遡る。

俺はバイトが終わり、廃棄の弁当と飲み物を持って家へと向かっていた。 時計の針はもう1日を終えていた。
急ぎ足の俺を止めたのは、呂律の回っていない酔っ払いだった。
何を言っているのかは分からなかったが、やめてほしいとしか思えなかった。
そんな俺を救ったのは、俺のバイト先によく来るサラリーマンだった。
「おじさん、彼困ってるから、お家帰りましょうね。」
そう言って酔っ払いをどけてしまった。
「あの…ありがとうございます。」
「ん…?あ…コンビニくんだ。」
ゆっくりとした発音で聞き覚えのない名前を呼ばれる。
「は…?」
「あ、えっと、コンビニで飴、くれたでしょ?それにいつもコンビニで会うから、コンビニくん…って呼んでました。」
照れたような、申し訳なさそうな顔で言われる。
あまり嫌な気分はしなかったのは、この気弱そうなサラリーマンに少し親近感を感じていたからだろうか。
きちんと覚えている。
俺がシフトの時はいつも、日付が変わった後にコンビニ弁当を買いにやってくる。
いつも疲れたって顔に書いてあるみたいに、げっそりしてて、何となく親近感が湧いていた。
「川野 柚月。」
「え…?」
「名前。俺の名前です。あんたは?」
「あ…柚月くんかぁ。僕はねー、森 知里です。」
うふふー、名前知れちゃった、なんてニマニマしている彼の名前を初めて知った。
何で自分が名前を教えたのか、分からなかった。

それから、公園で色々話して知ったこと。
森さんは27歳で、仕事はイベントの企画とか運営。
今日は無事大きなプロジェクトが終わったから、会社の人達と飲み会だったらしい。
「この公園ね、桜がきれいだよねー。新人の頃は失敗するとここに来て、お酒飲みながら1人反省会してたんだー。」
「今はもうしてないんですか?」
「んー?もう慣れたからねー。今度は後輩くんの失敗のフォローで残業だけどね。」
はは、と少し乾いたような笑い方をした。
他人の失敗なんて放っておけばいいのに、と思ったけど、そう出来ないほど優しい人なんだと思い直した。
「もうご飯は食べた?」
「いや、まだです。適当に作って食べてしまおうと思ってました。」
料理するんだねー、とゆっくりな口調で言われる。
「…あの、良かったら食べていきます?」
「え…!…いいの?」

正直、何であんなこと言ったのか、自分でも分からない。でも、いつもコンビニ弁当だし、料理しないんだと思ったんだ。
公園の目の前だった俺の家に着くと、森さんはちょっと戸惑った。
「どうしたんですか?」
「…あ、えっと、この隣の部屋、僕の家なんだ。」
俺の、は?という声がエントランスに少し響いた。
いつもコンビニに来るお客が隣の部屋に住んでいた、なんて信じられない。偶然にも程がある。
部屋の中に案内して、適当に座ってもらう。
食材を出し、料理を進める間にも色々なことが頭の中をぐるぐるしている。
「柚月くんは大学生なの?」
シロクマのクッションを抱えてソファに座ることにしたらしい森さんから質問が飛んでくる。
「はい、そうです。今2年っす。」
「そっか。若いねぇ。」
「まぁ…。てか、ちょっと酔ってます?」
「ん?うん。酔ってると思う。さっきよりはマシだけど。」
シロクマを抱えながら左右にゆらゆら揺れている。
何してんだ、あの人は。相当酔ってるだろ。
そんなことを考えている間に料理が出来た。
オムライスと野菜炒め。
とりあえず冷蔵庫にあった物で、1番簡単に作れた物。
そんな料理を前にして、森さんは口角をだらしなく緩めた笑みを見せている。
「わぁ…美味しそう。いただきます。」
きちんと手を合わせてから、食べ始める。
「どうぞ、召し上がれ。」
少しもぐもぐと食べ進めると、美味しい、と感想をくれる。
その内、料理は何で出来るのか、という質問をされた。
「単純に一人暮らしでお金がないんでやってるのもありますけど、料理自体は好きなんでやってます。」
ふと、箸を止めて、偉いなぁ、としきりに褒め出す。
その言い方が小さい子どもに言うようで、くすぐったい。
「こんな美味しい料理、毎日食べれたら幸せだなぁ。」
「…家では作らないんですか?」
「恥ずかしながら、苦手で…。作ってくれる恋人もいないからねぇ…。」
少し陰のあるような笑顔に、胸が痛む。
「…じゃあ、俺で良ければ作りましょうか?」
今日何度目かの、どうしてそう言ったんだろうという気分だ。
こうして、お互いの時間の都合がつく日は一緒にご飯を食べることになった。
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