小説

□君のいるコンビニで。
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「…疲れた。」
この言葉も、もう何回目だろう。
明日行われるプレゼンの資料の訂正をしていたら、日を跨いでいた。
つくづく歩いて帰れる距離に家があって良かったと思う。
もう常連となっているコンビニに足を向ける。
夕飯はコンビニ弁当だ。男の一人暮らしなんてこんなもんなんだろう。自覚した途端に心が重くなる。
彼女なんて何年もいない。
新人の頃こそは希望に満ち溢れていた。
昇進していく度に重くなっていく責任と増える残業。
業績がちゃんと出てることだけが支えだ。
コンビニ弁当と缶ビールを1本。
レジを打ち始める店員にポイントカードを差し出す。
受け取った彼は20歳前後の大学生に見えた。
若いなぁ、と思いながら、自分の新人の頃を思い出していたせいで、店員が袋に入れ終わったことに気づかなかった。
「あの…。」
「…あぁ、ごめん。」
袋を持とうとした時、店員が俺の方を見て、あ、と声を出した。
そして、ゴソゴソと袋に何か入れた。
「会社には内緒っすけど、飴入れときます。」
彼がこっちを見たから、は、って声に出てたみたいだ。
「なんでって感じっすか?いつも疲れた顔して来るじゃないっすか。今日は特に、今から死にますみたいな顔してるんで、特別!」
自分の口の前で人差し指を立てて、内緒だと主張してきた。
「…ありがとう。」
いーえ、と口を横に広げて歯を見せて笑った。

秘密の飴はコーラ味で、家にたどり着くまでには小さくならなかった。
いつもより少し早く着いてしまったせいかもしれない。
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