小説

□嫌な記憶。
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煙草は好きでも嫌いでもない。
20歳になって吸い始めた友達も多い。
でも、煙草を吸う人は、嫌いだ。
彼を思い出すから。

彼と出会ったのは3年前。まだ俺が高校生だった時だ。
素行も成績も悪くなかった俺は、進路も割とすんなり決まっていた。あとは、本番に向けてさらに頑張れと言われていた。

ある日、最近結婚したばかりで幸せオーラを醸し出している担任から、英語教官室にいる真田という教師までお使いを頼まれた。
正直めんどうだった。渡り廊下を通らなくてはいけないほど距離があるのだ。
心を引きずるように歩いていくと、教官室のドアが開いていた。
そっと覗き込むと、誰かが窓の方を向いて立っている。
静かにノックをすると、振り返る。
「あの…真田先生ですか?志田先生から頼まれたものを持ってきました。」
近づいて分かった。彼は煙草を吸っていたのだ。
「先生、学校で煙草吸っていいんですか?」
「あぁ、ダメだな。だが、俺は教師だ。見逃してくれよ。」
半分笑いながら言われたことが頭にきた。
「…じゃあ、俺にも吸わせてくださいよ。」
「You're still too young for that. …もっと大人になったらな。」
悔しい、と思った。
煙草の煙を吐くように諭された。でも、視線を逸らせなかった。
これが、彼との出会いだった。

その後、俺がけしかける形で付き合いだした。
男同士だったし、教師と生徒だったから、外でデートをすることはなかった。でも、ふと見上げるとしている、俺を甘やかしてくれるような顔はくすぐったくて、幸せだと感じれた。
でも、そんな関係もすぐに手のひらをすり抜けていった。
卒業式の後、英語教官室で2人でアルバムを見ていた時、彼は言った。
「…幸宏、別れよう。もういいだろう?」
耳触りの悪い言葉だ、と思った。
でも、それ以来、連絡はない。俺からも連絡は出来ない。

もう、別れて2年経つ。
なのに、煙草を吸う人を見ると、あの姿が重なる。
彼は俺の心から出ていってくれないみたいだ
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