小説

□ねぇ、
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彼女が歩けば、皆が振り向く。
肩くらいの髪と、膝上のスカートを揺らして。
誰もが目を奪われる。
彼女はただ、ほんの少し口角を上げ、視線をちらりと向けるだけだ。

「ビビ。」
彼女はそう呼ぶように私に言った。
クールで、掴みどころのない彼女は私だけに笑顔を向けてくれる。
「リリ。ありがとう。」
ソーダ味のアイスを嬉しそうに受け取る。
まるで子供みたいだ。


「リリ。好きだよ。」
そう言って私の髪に口づけを落とす。
私だけが与えられる証。
ビビは眠たそうに膝に頭を乗せる。
彼女の柔らかな髪をなでる。


『ビビが学校に来なくなった』
そんな噂をきいた。
嘘だ、と信じたかった。
でも、それは1番私が実感していた。
ビビはそこにいるだけで分かるくらい派手だから、分かるはずだった。

…結局、彼女は現れた。
学校からの坂道。坂下に、立っていた。スカートを風に吹かせながら。
「リリ。」
「ビビ。ねぇ、どこ行ってたの。私にくらい言ってくれてもいいでしょ。」
ただ、笑っているだけだった。
長い時間を置いて、彼女は紡ぎ出した。
「ねぇ、リリ。私を殺してくれないかな?」
言葉が突き刺さった。
前より随分やせ細った彼女。
彼女の噂。
彼女の笑顔。
私は確かめるように身体を手でなぞって、その細い首に手をかけた。
「愛してるよ、ビビ。」

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