小説

□彼は。
1ページ/1ページ

「セピアさん、氷結といいちこ、どっちがいいですか?」
「いいちこ。」
ですよね、と言って、手渡しながらソファに座る。
相変わらず綺麗な部屋だ。
テレビでは、少し前に話題になった映画が流れている。
映画のモノローグと、セピアさんが編集作業をしている、カチカチという音だけが響く。
4人で録った実況は、コジマさんがうるさすぎて、イヤホンをしていないと近所迷惑になるだろう。
眉間にしわを寄せながら作業をしている姿は、結構好きだ。
ソファに座った俺は、酒を口に運びながらセピアさんを見ている。
俺の方がいくつか年下なのに、年齢をあまり感じないのは、彼の人柄によるものだろう。
もう、映画の内容は、分からない。
ふぅ、と大きく息を吐いて、イヤホンを外している。
セピアさんはお酒を片手に、俺の横に座る。
肩が触れている。
映画に目を向けている彼は、とても楽しそうだ。
主人公の男性が甘い告白の台詞を口にし始めた時、隣から寝息が聞こえてくる。
酒の缶を傾けながら、セピアさんが眠りに落ちている。
「セピアさん、起きてください。寝るなら、寝室に行きましょう。」
缶を奪い取り、肩を揺らすが、起きる様子はない。
歩かせてでも寝室に連れていこうと決め、立ち上がると、腕を掴まれる。
「つわ…はすさん。…いっしょに…」
寝ぼけているのか、呂律は回ってないし、途中で寝始めてしまった。
なのに、可愛いこと言っちゃって。
酔っ払いに手を出すことも出来ず、セピアさんの手を引いて寝室に行く。
年上で真面目なのに、どこか抜けていて、酔うと可愛いことばかり言う。
そう、彼は俺の恋人。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ