短編
□君と懐メロと僕
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「あーもう!また不採用だし!」
人のうちに上がりこんで、いきなり愚痴を吐きながらソファーに倒れこむ。え、誰がって?こんな図々しい奴は他にいないと思うんだけど。
「はいはい。就活ご苦労様」
「いいよね、安定はさ。院に進むんだもんね。気楽なもんだよねー」
僕たちは大学4年生になったばかり。僕は大学院に進むことを決め、清光はご覧の通り就活中だ。
まだ春だし決まってない奴も多いんだから落ち込む必要はないと思うんだけど、やはり何社も続けて不採用になれば、こうして愚痴りたくなるだろう。いつもならウザいの一言で一蹴してやるけど仕方ないから嫌味だって大目に見てやるよ。
「コーヒーでいい?」
「あ、うん」
リモコンを所定の位置から取り、テレビをつけてパチパチとチャンネルを変える清光。僕は普段テレビは滅多に観ない。だからこのテレビがついてるは清光が来る時だけ。
『街で100人に聞いた、春に聞きたい曲。次は……ズピッツのジェリーです!』
「あ、懐かしいね。この曲好きだわ」
清光が呟き会話は止まる。テレビから発せられる音だけが部屋に響く。無言だから気まずいという間柄でもない。
豆を挽きお湯を注げばコーヒーの香りが部屋に広がる。うん、この空気感好き。そして流れ始めた懐メロがなんだか心地よくって。
『きっと想像した以上に騒がしい未来が僕を待ってる〜♪』
「愛してる」
「……」
「はぁぁぁぁあ?」
ソファーに寝転んでいた清光は耳まで真っ赤にして飛び起きた。
「愛してるの響きだけで強くなれるんでしょ?好きなんでしょ?この曲。だったら落ちたことクヨクヨしないで、さっさと次どっかエントリーしてきなよ」
「……それ励ましの言葉?」
「は?それ以外なにがあるの?まさか愛の告白とか思ったの?僕そんな趣味ないから」
「分かりづらっ!!!!!ウザっ!!!」
気の利いた慰めが欲しいなら、ここに来るなよ。僕が口下手なことくらい知ってるくせに。
「慰めて欲しいなら、カノジョのところにでも行けばいいだろ」
「え?こんなカッコ悪い姿見せらんないし。それに自然とここに足が向いた」
赤面の顔で言うなよ。こっちまでなんだか恥ずかしくなるじゃん。ブス清光。