ヒーローと私の日常

□2:大切な人がいない日常
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「はぁ〜」

風呂場で着替えながら溜息を吐く。
家族を殺された衝撃的な光景は、時々フラッシュバックして私を襲う。
その度に酷い吐き気がするのは困りものだ。

「これからどうしよう」なんて考えながら、大分ブカブカのシャツを着て男のもとへ戻る。
あまり大柄な体格に見えないこの男。
人は見かけによらないと初めて思った。

「お前が着てた服はどうする?捨てるか?」

正直、この服を見ていると、あの悲惨な光景を毎回思い出してしまう。
あまりにも心苦しくなるので、処分することにした。

「じゃあ本題だ」

「本題?」

男と向かい合うようにして座った私に、急に話題を振ってきた。

「お前、他に行く所はあるのか?親戚とか」

急に真面目な顔つきになった男は、身寄りの話を持ちかけてきた。
恐らくここは私が暮らしていた世界と違うのだろう。
怪人というモノが存在している時点で分かった。
無論、親戚などいる筈もない。

「・・・いません」

「そっか。じゃあお前は俺が引き取る」

「・・・・・・・・・・・・え?」

言われたことの意味がよく分からなくて、暫く呆けていた。
思わず聞き返すと、男は「俺の所為でとか言うつもりないけど、中途半端に助けるってのはアレだしな」と言った。

どれがどうなっているのかは知らないが、どうやら本気のようだ。
ケロッと言ったクセに、目が真剣そのものだった。

こちらとしては行く所がないので、この男の世話になる方がこの世界で生きていけるのだろう。
しかしだ。そこまで迷惑をかけてもいいのかどうか・・・。

「ま、身寄りがないなら俺の家に居ればいい。面倒くらい見てやるよ」

「・・・ありがとう」

少し迷ったが、やはりこの男と居た方が安全そうだ。
怪人も倒してくれたことだし、生活の面倒まで見てもらえると言うのなら、こんな願ったり叶ったりな話はない。

「おう。俺はサイタマ。趣味でヒーローをやっている」

「え、趣味?」

「お前も見た通り、俺はいつもワンパンで怪人を倒しちまうんだ」

サイタマさんは日々の日常に刺激を求めているらしい。私とはまるで正反対だ。

・・・私にもサイタマさんのような力があれば、あの時、お母さんや陸を守ることが出来たのだろうか。

「お前は?」

「え?」

「お前の名前」

「あ、藤堂七海です」

「見たところ・・・高校生か?」

「・・・中学生です」

「えっ!?」

何故だろうか。いつも自分の年を言うと驚かれる。
そんなに老けて見えるのだろうか。
酷い時なんかは、陸のお母さんだと間違われたりもする。

「随分と大人びてんなぁ・・・」

「人の事言えませんよね」

「頭をみて言うな!!」

サイタマさん曰く、強くなりすぎて禿げたらしい。
今の強さと引き換えに髪の毛失うのかぁ・・・。ちょっと考えるな。
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