キッキング☆ガール

□1:極道の娘って大変だ・・・。
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遡ること一週間前。
当時の私は小学校六年生で、丁度春休み真っ只中だった。中学のクラス発表を目前に控え、浮き足立っていた時期。急に引っ越すと告げられた。

「えっ、引っ越しするの⁈」

「ああ。この家も大分古いからな。新しく建てた所へ移ろうと思う」

その時住んでいた家は築百年近く経っていて、オンボロなんてもので片付けられる程の廃れ具合ではなかった。
それでも、何処も住めば都だ。それ程不自由は感じていなかった。
それに、引っ越す際には学校も変わると言われていた。そう簡単に「はい、そうですか」と引き下がりたくない。

「ヤダよ、こんな時期に転校なんて。友達と離れたくない」

「でもね、七海。お父さんの仕事の関係上でも仕方のないことなのよ。藤堂組が栄える為には、もっと人の多い都市に行かなきゃいけないの。地方でチマチマやっていてもダメなのよ」

両親は極道だ。今の世の中、極道とは主にはみ出し者のことを言うらしいが、この人達は違う。
今までお金を貸してきた人達に、どれ程感謝されたか分からない。
極道と聞くと、どうしても怖いイメージが強いが、この二人は当てはまらない。

そもそも極道とは、本来仏教用語で仏法の道を極めた者という意味であり、肯定的な意味を指すものである。
二人が何故極道になったのかは知らないが、私は二人の仕事を誇りに思っている。部下思いの良い人達であることを知っている。
極道であるという以上、同業者同士の対立は否めないが、やはり私は二人が好きだ。
二人のしたい事にはとことん付き合うし、私が足枷となって仕事を邪魔したくはない。

「……分かった。二人の仕事の為なら、仕方ないよね」

「ありがとう七海」

「貴方ってつくづく良い子ね。今回の件に関しては本当に申し訳ないわ」

友達と離れることは今でも嫌だ。
でも、二人の仕事と天秤にかけると、後者の方が明らかに重い。
友達にはまた会いに来ればいいだけの話だ。

その日の夜、急遽お別れ会が開かれ、私は泣きながら友達と別れた。
寂しくないと言ったら嘘になるが、同様に新しい学校への期待感も大きかった。
これから始まる新しい生活に思いを馳せて、ベッドに体を沈めた。
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