世界存続の鍵を握る少女
□1:幕開け
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「うわーっ!!」
新築の一軒家を仰ぎ見ながら感嘆の声を上げる。
三人家族には大きすぎるのではないか、と思う程だった。
中庭やウッドデッキまでついている。
オーストラリアでも、こんなに贅沢な家を見たことは数少ない。
「今日からここに住むのね。」
「七海が喜ぶかと思って、わざわざ庭付きの家を買ったんだぞ?」
「ホントに!?ありがとう!!」
素直に感謝の気持ちを言うと、お父さんは少しデレっとした表情になった。
ウチの父親は世に言う『親バカ』である。
この家に庭をつけた理由がいい例だ。
他にも、私が物欲しそうにしていたら必ず買ってくれたり、お母さんに叱られたりするといつも「まあいいじゃないか、七海も反省していることだし」と言って宥めるのだ。
お陰で小さい頃から何不自由なく暮らしてきた。
だからといって、我儘お嬢様に育ったワケではない。寧ろその逆だ。
「お父さんがこんなだから私がしっかりしなきゃ!!」と思って、比較的お利口に育った・・・と思う。
その点では父に感謝している。
「さ、中に入りましょうか。荷物はもう届いてる筈よ」
お母さんが促す。私はワクワクしながら新しく住む家の扉を開いた。
新しい家の匂いがする。そこに生活臭はなく、ただ木材の匂いだけがした。
結構好きなんだよね、木の匂いって。
「七海の部屋は二階の奥にある部屋よ」
お母さんに言われ、螺旋階段を上って二階へ向かう。
外見通り中も相当広く、洒落たデザインのインテリアだった。
「悪くないかも」
呟いて、自分の部屋の扉を開ける。
届いていた家具やダンボール、持ってきた荷物を整理した。
引っ越す前に予め整頓しておいた為、整理に然程時間はかからなかった。
「うっわぁ〜・・・」
またお父さんが余計なことをしたようだ。
新しいベッドが窓際に置かれていた。
俗に言う、『お姫様ベッド』。
嫌いではない。嫌いではないが、流石にこの年でこのベットはないんじゃないか。
そう思いはするが、お父さんが良かれと思ってしたことだ。感謝しよう。
「そうだ、七海。明日はお前の初登校日だな」
「もう学校行くの?」
夜ご飯を皆で食べている時だった。
お父さんが明日から通う中学校の説明をしてくれた。
雷門中学校というらしい。何でも、女子の数が異様に少ないそうだ。
「えーっ!?そんな男子ばっかりの学校に行くの!?」
「お父さんだって、我が子を千尋の谷へ突き落とす思いなんだぞ!!なのに母さんが・・・」
お父さんが言いよどんだのでお母さんの方を見ると、我が母ながらとてつもなく黒い笑みを浮かべていた。
これには流石のお父さんでも頭が上がらないようだ。
尻に敷かれるって正にこのことだな。
「制服はクローゼットに入ってるからね」
お母さんの言葉を頭の片隅に置いて、明日からのスクールライフを楽しみに寝付いた。