書庫

□助演女優症
1ページ/1ページ

助演女優症




「小梅…愛してるぜ。」


泣きそうになる私に、晋助は甘い言葉を向ける。

これはいつものこと。

私が泣きじゃくる理由を知りながら、こうやって言葉をかける。


それに腹を立てるどころか、そんな戯言でさえ心地よくなってしまう。

また囁かせたいその言葉の為に、私からも鎌を掛ける。


「私も、愛してる。」


これは半分嘘で、半分は本当。

重なる唇にまた胸を高鳴らせ、続きを乞うている。

それでももうこれ以上は繋いでくれない。

慣れてしまった愛撫はもっと、もっとと激しさを求めている。
そんなのも私だけで、自分が惨めに馬鹿らしく思えくる。




「ねぇ、晋助。」


もうこの男の手の中にあることぐらい知っている。

今更逃げようだなんて思わない。
逃げられるはずがないから。


「愛してる。」

どれだけ心中を言葉に出しても、あなたに伝わる事はない。


それでもこんな安っぽい言葉で、あなたが私を見てくれるなら。


「俺から離れられると思うなよ?」



そんなお決まりみたいな台詞だって、私を惑わせるには十二分よ。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ