短編(弱ペダ)

□ひかりのいろ
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彼らしい部屋だと思う。

綺麗に整理整頓された部屋から伺える繊細さと、そしてほのかな暖かさ。
揺れるカーテンから溢れる光が心地いい。

予想していたより広く、大きな部屋だったけれど、その中身はとても彼らしくて、暖かかった。
誤解を招きやすいけれど、彼は他の人が思っているよりもとっつきやすくて、そしてとっても優しいのだ。

「…あんまりジロジロ見るなヨ? 変なことしたら死刑っショ」

物騒なことを言うけれど、彼がそんなことをするわけがないことは私がいちばん良く分かっているわけで。

むすっとしているように見えるのは緊張しているから。
それは私も同じで、きっと彼に負けず劣らずドキドキしていると思う。

だって、私はカノジョという存在で、彼…つまり巻島くんはカレシという存在。
つまり私たちは恋人同士というわけだ。
この二人きりという状況にドキドキしないで、いつ緊張すれば良いというのだろうか。

「ねえ巻島くん、変なことって何?」

「そりゃあ、部屋の中漁ったり勝手に冷蔵庫開けたり…」

「…ほんとにそれだけ?」

どくり、と心臓が動く。
隣に座っている巻島くんが、びくっと身体を動かしたのが分かった。

しゅるりと伸びた手に、細長い脚。
私より大きな、男の子の身体。
命を削りながら戦う、ペダルを漕ぐ…自転車にすべてを注いだ身体。

カーテンが揺れる。
光が溢れる。
溢れた光が巻島くんの髪に反射して、きらきら光る。
とても綺麗な、たまむしいろ。

「…ナマエって案外、大胆なこと言うっショ」

「そうかな? 巻島くんと二人っきりなんだもん。私だって、たまには期待するよ」

「フゥン、期待ねェ…」

染まっていく肌が、とても綺麗。
たまむしいろによく映えて、巻島くんがきらきらしている。

彼があんなにだいすきな自転車だって、信頼しているチームメイトだって、きっとこんな彼の顔は知らないんだろうなあ。
そう考えると心の奥に溜まっていた汚い嫉妬の色なんて、たまむしいろの光で消えてしまう。

「巻島くん、真っ赤。夕焼けの色みたいだね」

「それはナマエも同じっショ…ほら、耳まで赤いぜェ?」

伸ばされた細長い腕。
大きな手のひら、努力の証が見える指。
赤くなっているらしい私の耳に、優しく触れる。

巻島くんは睫毛が長い。
そんな新しい発見ができるくらいの距離。

「目ェ閉じろヨ。こっちが恥ずかしくなるっショ」

「恥ずかしがる巻島くんも私は好きだよ」

「まーたそんなこと言って…」

きらきらと、たまむしいろ。
私の前髪と、巻島くんの前髪が重なるくらいの距離。

目を閉じても瞼の裏に浮かぶようなそんなたまむしいろに浮かされた熱は、きっと一生かけても消えやしないだろう。

「オレも、好き」

どくり、と心臓が跳ねる。
その熱は、ひかりのいろ。

優しくて、暖かいたまむしいろ。
私がいちばん好きないろ。


(ひかりのいろ)
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