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□ケロタマ
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外に出たいと言ってから、冬樹殿やタママに協力してもらってる今。申し訳ないが我輩の頭はそれどころじゃなかった。
「動かないでくださいねー」
超近距離にあるタママの顔。それはもちろんハリウッド仕込みらしいメイクを施してくれるからだ。だからタママはただ手元に集中して、我輩の様子なんか気にも留めていない。
でも、我輩はついどうしても目の前の無防備に薄く開いた唇に目がいってしまった。
だって、そこはいつも愛らしく、自分に好きだと告げる。
溜まった唾を飲み込み、手を伸ばした。
「タママ」
作業をするタママの肩を掴む。突然の事にタママはきょとん、と大きな瞳を丸くする。
「好きでありますよ...」
その黒曜石のように煌めく瞳を見つめて、届けと願いながら想いを囁きゆっくりと顔を近づける。
唇が触れ合う瞬間。
「ひっ...! イヤーーーッ!!」
頬を襲った強烈な衝撃に体が吹っ飛ぶ。頭がぐわんぐわんと揺れている気がする。痛む頬に手を当て、呆然とタママを見た。さっきとは違い、瞳孔が開き肩で息する様子に、甘い雰囲気は欠片も見られない。
襲い来る失望の波に、ツンと鼻が痛むのを感じながら口を開いた。
「我輩のこと...そんなに....」
「あっ! ち、違うんですぅ! そうじゃなくて!」
何やら慌てたタママが、おもむろに鏡を取り出し目の前に掲げる。
「ゲッ、ゲローーー!?」
「だ、だからイヤ...びっくりしちゃってっ、それで...」
そこにはカエルがいた。ケロン人とは全く別物の、ガチの地球のカエルが。
「...さすが、ハリウッド仕込み.....」
「え、えへへ〜...」
なんともいえない微妙な空気になった。
「さて、行ってみるであります...」
それを振り払うように独り言を言って立ち上がる。とりあえず忘れたかった。
「あっ、軍曹さんっ!」
何? と言おうとタママの方に顔を向けると、小さな黒い掌が二つ重ねて我輩の唇に置かれた。そして、ほんの短い間。タママがその掌越しに唇を寄せた。
「...はやく、本当にしましょうね、ですぅ」
ちゅっと可愛らしい音を立てて離れ、タママがはにかむ。
「っ...! タ、タママァ! 我輩っ、頑張ってくるでありますっ!」
「はいですぅ! 軍曹さん!」
その後は結局失敗に終わるものの、カエルメイクを落としなんだかんだアンチバリアも覚え問題は解決した。そしてタママと本当にしたかどうかは...これは内緒であります!