『一方通行な恋行方。』
□*第2話*真夏の昼下がりでの出来事
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正午を30分ほど経過した時、それが起きた。
「ねえ、あの屋上に立ってるのって楠木さん....だよね?」
「そう、だよね....何であんな所に突っ立ってんだろ?」
ちょうど僕も友達と外に出ていた。
女子たちが屋上の方を見て、何か言っていたので、僕達も屋上に目を遣ると、あの楠木さんがいた。
長く艶やかな黒髪を、心地よい風に靡かせ、金網の外に出て、遠くを見つめていた。
金網の外?
嫌な予感がした。
1歩、2歩と歩を進める。
「小夜さん止めろおおおおおお!!!!!」
咄嗟に叫んだが、もうあそこに彼女の姿は無かった。
すぐさま、楠木さんが落下したであろう地点に行く。
「きゃああああああ!!!!!!!」
そこには、楠木さんの変わり果てた姿があった────。
頭を強く打ったのか、出血が酷かった。
既に息が絶えていた。
即死だった。
楠木さん、いや楠木小夜さんは、わずか16歳という短い生涯に幕を閉じた。
同じクラスになった僕は、あまり接する機会が無かった。
いや、逆に触れてはいけない。
触れたら、もう元には戻れないと思った。
でも、もう彼女はこの世にいない。
話す事も、触れ合うこともできない。
どうしようもできない、居た堪れない悔しさに、もう涙すら出なかった。
“人の命”ってこんなにも呆気ないんだなって───。
土の匂いがする灰色のアスファルトに、ぽつりと悲しげに置かれた小さな花束。
もっと早くに止めていれば、楠木さんは死なずに済んだのだろうか。
でも自ら死のうと決心したのに、赤の他人から止められたら。
“生き地獄”だろうな───。
一度も自分の思いをはっきり伝える事が出来なかった。
僕の初恋の人が、
僕より先に死んでしまうなんて────。
いくらなんでも、これは辛い。
酷すぎる。
ふと背中に違和感を感じる。
夏だというのに、何故か肌寒い空気が僕を襲う。
それと同時に何らかの気配も感じる。
『佐藤....勝利君、だよね?』
意を決して、声がした方へ振り向く。
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《雨の日》