纏本

□PHASE.6『鏡光』
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「戦争なんて、本当は嫌なんですけどね」

貸し出しのホテルの一室でエクレールはバルドフェルドと会っていた。
バルドフェルドはふむ、と難しい顔で頷くと手元の珈琲を一口、口に運んだ。
ユニウスセブン落下の影響で、海岸沿いに近かった孤児院は半壊するという結末に至った。
このままでは住めないと悩んだ所、キッドとバルドフェルドの計らいによってホテルの部屋を数室無料で貸し出してくれた。
数日経つと地球連合軍の宣戦布告が発令され、バルドフェルドが急遽会いたいと尋ねてきて今に至る。

「……だが、ウチも歌姫が狙われてな……なんとかその件は解決したものの、やはり動かずにはいられない状況にまで迫ってしまった」

「……………」

一応キッドの息がかかったホテルとはいえ、オブラートに歌姫と呼んだ事にエクレールは事態が知らぬままいつの間にか進んでいる事に顔をしかめる。

「婚姻、ですか……」

なんとなく考えが及んだ結果口にした言葉はバルドフェルドを驚かせた。

「……よく分かったな…」

バルドフェルドの反応と言葉にやっぱり、とエクレールはさらに顔が暗くなる。
カガリ・ユラ・アスハは七大氏族の一つであるセイラン家の跡取り息子と婚姻を結ぶ、という事実が報道されている。
バルドフェルドらが動かざるをえないというからには、それしか考えられなかった。
ユウナ・ロマ・セイランは余り良い男ではない、アスハ代表を影から操るその能力は内政には向いているが外政にはからっきしである。
現状のオーブからしてそのような男と婚姻を結べば少なくとも、オーブはウズミ・ナラ・アスハの時とは違った末路を辿る事になる。

「……お前さんの言う通り、カガリをセイランに渡せばオーブは厄介な道を辿るだろう……少し乱暴だが、ヒロインは誘拐しなきゃな」

皮肉を込めて自嘲するバルドフェルドにエクレールは顔を上げて彼の表情を見た。
歴戦の兵であろう威風を堂々と纏うその姿に、微かにエクレールはこの人は本気なんだと悟る。

「何しろこっちのフリーダムのパイロットの言う事も一理あってな……似たようなお前にも聞きたい事だったんだが、どうやらやっぱりそうなるよな」

遠回しにキラの事を指す言葉に胸が少し痛くなるも、エクレールはバルドフェルドを優しい人だと思えた。
密接には関わりがなかった三隻同盟と自分たちだが、少しなりとも分かってくれている事に感謝が出来た。
バルドフェルドは徐に懐から一つの鍵を取り出した。
三日月が三つ重ねた装飾が施された鍵。

「これは…?」

問い掛けながら見るとバルドフェルドが真剣な表情でエクレールを見つめた。
迫力のある表情に思わずうろたえるも、その目を見つめ返す。

「……お前さんが、本当に必要だと思ったら………お前さんたちの住んでた孤児院に地下への入口がある…」

住んでいて初めて知った孤児院の地下の存在に、一種エクレールは何の事か分からなかった。
バルドフェルドはそんなエクレールに構わず、続ける。

「……そしたら、コレを使え」

差し出された鍵を迷いながらも恐る恐る受け取り、鍵を見つめた。
何の鍵かは分からない、が何かきっと重要なものだという事はバルドフェルドの迫力で理解できた。

「……もう時間だ、俺は戻る…すまなかったな、急に邪魔して」

杖をついて立ち上がったバルドフェルドにエクレールは、はいと頷いてバルドフェルドを見た。

「………気をつけて下さい、バルドフェルドさん」
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