纏本

□PHASE.5『墓標』
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「ただいま帰ったぞ…」

扉を開いて暖かい我が家に入ると間を置いて子供たちがやいのやいのと迎えた。
久しぶりにキッドが帰宅したのもあってか子供たちは嬉しそうに、笑顔でキッドを迎える。
どう捌いたものか、と苦笑を浮かべているとリアンが奥からゆっくり姿を現す。

「おかえりなさい…キッドさん」

笑顔で迎えてくれる大人に、キッドも釣られて笑顔で返した。

「……ああ…ただいま」




「久しぶりの我が家だぁ…」

自分の肩を揉みながらキッドは疲労のため息零しながらソファーに腰を下ろす。

「随分と疲れてますね……」

同様に隣に座って言うリアンに、疲れたよと同意するとクスクス笑うのが聴こえる。

「子供たちに随分と歓迎してくれましたね……」

リアンの言葉に先程の盛大なお出迎えをしてくれた子供たちを思い出して苦笑が漏れた。
キッドを囲んでやいの騒ぐその可愛らしい光景は他の家庭ではなんとも余り味わえないものだろう。
書類仕事が盛んで精神的にも疲労が目一杯だったキッドの疲れを癒してくれるなど、やはり我が家が一番だと思わざるを得なかった。

「……エクレールは?」

帰宅して早々聞くのもアレな話題だったが、仕事中でも気になって仕方がない事だったので歯切れが悪くも聞いてみた。
リアンは笑顔でそういえば!と嬉しそうに口を開く。

「なんと!エクレール君は最近ご飯を作ってくれたりしてます」

え?と思わず驚いた。
キッドが軍に戻る為に家を出るまで結局エクレールは自室に篭って顔を見せなかった。
というより言葉すら取り合わず、まるで思春期の少年みたいに部屋に引きこもっていたのだ。
それが久しく帰宅してみて、まだ引きこもってるだろうなと半分鬱状態だった自分からしたらその予想を良い意味で裏切られる。
驚かない方がどうかしてる。

「……エクレールが?飯を作ったり?」

「ええ!他にも子供たちの世話とか、買い出しに行ってくれたりとかも!」

俄かには信じられない変わりっぷりだ。
悪い薬でも飲んだか?と思わざるをえない。

「……それは…見事な変わりっぷりだな」

「でしょう?」

まるで我が子のように喜びはしゃぐリアンに思わず笑顔が浮かぶ。
リアンは年上の女性であり、また地球軍の士官だった。
前大戦後、エクレールの悪性変異ぶりにリアンもまた鬱病になりかけていたのだから笑顔が零れる。

「何かあったのか?」
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