纏本

□PHASE.4『激動』
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「遅かったな…リンネ」

車の助手席の扉が開き、隣に座って扉を閉める真紅の髪を携えた女を見て呟いた。
リンネは運転席に座る黒い短髪を後ろに流して険しい紫眼の男を冷ややかに横目で一瞥した。

「……ノクティス」

「お前の我が儘はもう充分に聞いた筈だ……任務を忘れるな」

異論は認めないと言わんばかりの口調で咎めるように険しい視線をリンネに合わせた。

「……ラクス・クラインの捜索と捕縛か……興味がないな」

本当に面倒臭そうに吐き捨てるとノクティスは怪訝な表情でリンネを睨む。
そんな視線を何処吹く風と言わんばかりに流すと定期的に往復を繰り返すフロントガラスのワイパーの動きを眺めた。

「貴様……それでも本当に軍人か?」

「……私の目的を忘れたとは言わせないぞ、ノクティス」

リンネは尚も食い下がらないノクティスに鬱陶しそうに睨み返すと低い声色で黙れと豪顔不遜に吐き捨てた。
くっ、と苦虫を噛んだかのような表情になるとノクティスは窓の外の雨景色を一瞥する。

「………結局、会えたのか?」

「……いや、面会を断られた……」

「文字通り門前払いを受けたろう?あの機関は自軍の権限から逸脱して独立したものだ……そもそも自軍が、それも国防本部の行政官僚ですら殆どその実態を把握していない」

事務的な会話を続けながらリンネは窓の外の雨を眺める。

「…………」

沈黙で頷くリンネにノクティスはため息を吐いて車のキーを取り出した。

「どのみち滞在期間はもう三日も無い……戻るしかないだろう…ラクス・クラインの件については上に言い訳を付けて報告するしかあるまい……南米での戦争も終わった、協定条約を結ぶのも直ぐだ」

キーを差し込み、唸るエンジン音にリンネは喋る気すら起きずに沈黙で肯定した。
ノクティスはリンネのその反応にいつもの事だ、と続けて口を開いていく。
南米の大西洋勢力からの離合は戦争を齎したが、それもザフトの介入で鎮静した。

「……アイリーン・カナーバも終わりだな……」

呟いた言葉の真意は脳内にしまい込む。
アイリーン・カナーバとその取り巻きは言わばクライン派に当たる派閥だ。
和平と共存を望む穏健派が踏み出した一歩はコーディネイターにとって許せないものだろう。

「……それにしたってナイロビ講話会議も進展しなかった癖に、また中立国に先を越されている」

「リンデマン・プランの事か……だが軍事力制限を、水準規定値を作る事で双方に制限がかかるだろう?」

「……人口と国地面積が、MSと戦艦の保有数に比例するのにか……小国に値するプラントにとっては不利な話だがな」

「だが、地球各国の国境線も…」

「……論外だ。それは前大戦以前に戻しただけだ……どっちみち軍事力制限に輪をかけて不利にしている」

話を進める中、ノクティスはリンネを意外だと見つめた。
視線が歯痒くなったリンネは何だ、と視線を合わせずに問い掛けた。

「いや……お前がここまで喋るのが珍しくてな…」

「…………」

ため息と共にもう知らん、と顔を逸らし窓の景色に集中した。



雨はよく降っていた。
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