纏本

□PHASE.2『悲鳴』
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「久しぶりだな……ヒューイック先生」

リビングでソファーに腰をかけるよう言うと同様に向かい側のソファーに座る。
向かい側の席に座ったのは前髪を全て後ろに流して一つに纏めた黒髪、着る服装も今は私用の為黒のスーツとスカートに露出した足を覆うハイニーソの女性。
二十代中期を思わせるが、身長は女性にしては高かった。

「サラサ、深夜に突然邪魔したとは言え…迷惑にはなっていないか?」

ヒラ・ヒューイックは医者だ。
曲がりなりにも街の大きな総合病院の立派な医師ともなればプライベートの利く時間は深夜帯しかない。
無理言って呼んだのは自分だが、とキッドは苦笑しながらビールの缶を机に置く。

「気にするな……このリビングから子供たちや育児の先生が寝る部屋は遠い…」

「……言いたい事はとりあえず、お前が何故酒を持っている?未成年だろう」

ほんの礼だ、と軽く追求を流すと手を組んでヒラを見据えた。
キッドの視線を合わせると本題か、と口を開いた。

「……電話でも言ってたが、今回の話はエクレール君の事だ」

「……以前、あんたの病院に連れてった時に何か見付かったのか?」

前大戦終了後、エクレール・クラウは酷く疲弊していた。
食欲軽減、過呼吸、嘔吐、睡眠不足など例を挙げればキリがない症状に見舞われ、戦争の悪影響を受けたのだと皆は推察した。
キッドはそんなエクレールをコネでもあったヒラが勤務する総合病院に連れてくと、診察室から出てきたエクレールは鬱病だと明かす。
ヒラも診察した結果大きな影響ではない軽めの症状が一気に押し寄せた結果、鬱病に近いものだと判断せざるを得なかった。

「……だが、あの後カルテをよく診ていたらやはりといったところでな…」

鞄からファイルを取り出すと机の上に何枚かの資料を並べていく。

「精神的にかなりの悪影響があるようだ……統合失調症に近い……自己愛性人格障害、意識障害、記憶障害、思考障害、精神疾患などにも近いが……」

述べられる事実に頭痛がしてきた。
つまり、エクレールの心は相当ガタがキているという事。

「中でも妄想性人格障害が酷いな…かなり歪んだ感受性となっているよ」

キッドの表情が歪んだ。
どうりで最近おかしいと思った。
妄想性人格障害は人の言葉を己の悪い方にしか聞き取らない。
行動ですら悪く受け止めてしまう。

「兵士として、心を歪めてきた代償か」

室内の時計の針が刻む音が嫌に感じた。
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