纏本

□PHASE.2『悲鳴』
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誰かが泣いている…また……



なんで泣いてるの?



ねぇ、君たちは誰?



僕は君たちを知ってるの?



忘れてしまったのかな?



それとも僕は思い出したくないのかな?



そんなに引っ張らないでよ…



ほら……服が血で汚れちゃった…



大丈夫だよ……



そこに僕が立つのも……



もう少しだから……








「――嫌だっ!!!」

バチッと眼を見開いて思わず飛び上がる。
少しか一秒の後にバサッと何かが地に擦れる音が聞こえると瞬間意識がハッキリと覚醒した。
静まり返った暗い室内、自分が座するのはベッドの柔らかい感触。
沈黙の闇の室内で時計の針が刻む音と自分の荒い息遣いだけが軸を合わせたように重なり響く。

「………夢…っ……?」

掌で前髪を掻き上げ頭を押さえると指に汗が纏わり付く。
寝汗が酷い程かいた、上半身のシャツが首元に嫌な感触で張り付いた。

「…………」

夢にうなされるなんて事は前大戦以来だ。
ここのところ無心状態が続いていたせいか夢を見る事もなかった。
久しくうなされたという感覚に胸が嫌に熱くなった。

「………?……」

窓から見える景色がいつもと違う事に気付くとベッドから下りて窓に歩み寄る。


月が小さく、普段よりも真っ黒な夜の闇に思わず息を呑んだ。
今まででここまで真っ暗闇な夜の景色は見たことがない。
月の光は気持ち程度で、深夜であり街外れの海岸側という事もあって街の光は見えない。
その景色にみじろぎ一つ動く事が出来なかった。

まるでそれは宇宙の闇。

平行感覚を失い、生物が必要とする空気はなく、非常に寒く、闇しかない宇宙の空間。
何度も感じた心地好いようでいて、孤独感が全身を包む感慨。
戦いの空間、人が生きれぬ場所、果てのない漆黒。

それは自分の強い想いなど、ちっぽけなものにしか過ぎないと言われたような宇宙(そら)。
想いを埋め尽くす事の出来ない真空の世界。
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