纏本

□PHASE.1『鮮血』
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『力を持つのが恐いのかい?』


したたかな口調の、それでいて優しい声色の声が聞こえる。


『それとも、力そのものが怖いのかい?』


誰だったのか、余り覚えていない。


『そうか……どちらもこわいか…』


景色が光と共に周囲に溶け込んだ。





『だけど君が望むと望まずとも、君は否応なく流れに巻き込まれるんだ…』

鎮座する大きな機械仕掛けの人型の胸元の前で二人は互いを見据えていた。

『力は有ってこそ力で在り、力のない世界など何処にもないんだよ』

彼女は赤混じりの癖のある黒髪の隙間から僕を見ているだろう。
その表情は悲しそうにも、微笑んでいるようにも見える。

『力の有る者と無い者は確かに存在するよ?でも、私は力を否定しない…無力である事も蔑まない』

彼女は婚約者だった。
僕の義理の父と彼女の親が勝手に決めた事だけど。
僕は確かに彼女に恋慕の情を抱いていた。

『憎むべきなのは力の落差を生む世界と、神様が作った一方的な意思だけ……そこに済む人々に決して罪はないんだ』

鈍い鉛色の巨人の顔を見る彼女は美人であるかどうかの判別が出来ない。
目元が前髪で隠れているせいだろうか。

『遺伝子を弄っただけで化け物と呼ぶ世界、力が強すぎただけで悪魔と呼ぶ世界……酷いものだね、力に何の罪もないし力を持った者にも罪はない』

彼女と同じように巨人の顔を見る。
何も喋らない機械、この世界では圧倒的な力。
これに乗ったらまた僕は人殺しの悪魔に戻らねばならないのだろうか?

『例え君がこの子の力を手にしても、君は人間だ……私はそんな君にこの子を与えたいの』

彼女が造った兵器、彼女が造った力、彼女が造った人殺しの道具。
僕はこの巨人を複雑な眼で見てしまう。
これに乗るという事は彼女が生み出したモノを血で汚してしまう事だ。
だけど、これに乗れば彼女と共に居るという事に等しい。

『君に、世界を変えてあげて欲しい…どうしようもなく可哀相な力だけが存在意義なこの世界を……』





君 が 救 っ て あ げ て ?
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