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□PHASE.2『彼我』
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「……攻撃を開始……」
操縦桿を押し込み、勢いよく機体を突っ込ませるとスラスターの出力をそのままにデブリへ向かう。
棒状の柄を取り出し、大振りに払うと柄は四倍もの長さに伸びる。
柄の先の側面にある出っ張りから薄桃色の光が顕現した。
見た目そのままに、ビームシザーと呼ばれる武装は一言で言うなら鎌である。
リーチは長く広く、薙ぎ払えば四角たる隙を大いに消す事ができ、近接ならば攻撃力も高い。
「私の獲物を横取りか、ルリ?」
「あっ…えっ、ちょっと…!!」
次いでヤズーのグラトニーがルリのレイスの後を追う。
ミヤビのエンヴィは置いてけぼりにされ、ミヤビは後を追う前に背後を見る。
赤い機体――アンファングは見守るかのように動かず、ただレイスとグラトニーが向かった方を見ていた。
「…マサト…」
『構うな…行け、ミヤビ』
アンファングから繋がる通信、マサトの言葉にミヤビはう、うんと機体を幾分か遅らせて動かした。
(――…本当なのかな……)
――10時間前。
「……んで?これからどうするよ?」
青髪の男、リオンの問い掛けから五人は一斉にマサトへ視線を向けた。
マサトは壁に背中を預けて腕を組んでおり、隣に立つ赤髪のアレクセイがマサトから五人に視線を戻して口を開いた。
「…進路はこのままにコペルニクスへ向かう」
「はぁ?」
リオンの表情に困惑の色が浮かび上が、ヤズーがアレクセイへ視線を向ける。
「……中立国に何の用だ…宣戦布告をしたのだぞ?入れると思っているのか?」
「それに、中立国に入る目的は?…余り関係性が感じられないのだけれど?」
ヴァネッサの疑問は皆も同じだったのか視線で訴えかける。
リスクの高い意味のない行動はしたくはない、そう言いたげな雰囲気にマサトは微かに鼻で笑った。
アレクセイはそんなマサトの反応に了承するように、再び口を開く。
「理由は三つある…我々は一度地上にある本部へ戻らねばならないからだ」
「先程私は言ったぞ?宣戦布告をした、と……何故本部に戻る必要がある?攻撃はどうするつもりだ?」
「それに、その話じゃますますコペルニクスに向かう理由が見つからねぇよ」
アレクセイの言葉にヤズーとリオンが率先して疑惑を口にした。
ヤズーとリオンは性質が違えど、根本的な部分で言えば"好戦的"だった。
そんな二人の疑問と突っ掛かり方にアレクセイは呆れたかのようにため息を吐いて五人を見る。
「……では、お前たちは守らねばならん唯一の拠点をさらけ出したまま好き勝手に暴れる、と?」
「…あっ」
なるほど、と状況に入り込めないミヤビがいち早くアレクセイの言葉に理解を示した。
ミヤビは元はオーブ軍人だった。
オーブは諸島であり、何色にも染まらない中立国だったのだから戦時中に、理由は様々だが色んな国に攻撃される事は幾つかあった。
地球軍のような国と国の幾つもが統合して成り立っている統合軍とは違い、オーブはたった一つの小さな島で一つの勢力になるのだ。
状況や例外は幾つかあるが、国のトップが不在の国ほど攻撃しやすい状況はない。
バイヨネットの本部はある意味、オーブと同じような立ち位置なのだ。
「ミヤビは嫌でも解るだろう…トップのいない、たった一つの軍事拠点がどれ程潰しやすい事か」
アレクセイに共感の意を言われて褒められたと思ったミヤビはえへへ、と笑いながら俯いた。
実際は違うのだが…。
「…だったらコペルニクスに寄る理由は何なんだよ?最大の疑問じゃねぇか」
「……アンタは馬鹿か?」
「んだとっ!?」
尚も食いつくリオンに今まで沈黙していたルリが素直な感想を呟いた。
ルリは視線を虚空に向けたまま、リオンに問い掛ける。
「……補給は?」
「…あ?……そりゃ、お前どっかで…」
此処で気付いたのかリオンはハッ、と言葉を区切るとアレクセイに視線を戻す。
やれやれ、と言いたげなアレクセイ。
「そういう事だ…」
「ククッ…なるほど……宣戦布告をしたとはいえ、他所の国ならいざ知らず中立国ならばまだ入れる余地が少なくともある」
ヤズーも既に理解は及んでいたのか同意すると、黙って聞いていたヴァネッサに視線を向けた。
「……コペルニクスには既にバイヨネットの工作員が入り込んでいる、というわけね…」
「どのみち、合流予定だった協力者を回収する筈だったのだ…一度にそこで済ませて時間のロスは抑えねばならん」
アレクセイの理由三つに納得がいったのか、五人は笑ったまま眼を閉じているマサトを見た。