纏本

□PHASE.8『曇天』
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「よく雪が降る国ですね…」

エリスは雪が降り出した空を見て無感情に呟いた。
ドイツのベルリンの街、そこは肌寒い国だった。
行き交う人々はマフラーやコートで身を包み、寒さを凌ぎながら何人もの人々が交差して歩いている。

「…………」

壁に背を預けて腕を組んだままのマサトはただ闊歩する人々を眺め、決して喋らなかった。
エリスはマサトのその姿を後ろから眺め、何を考えているんだろうと思った。
マサトもやっぱり寒いのだろうか。
だが、マサトはいつものザフトの白服の上から黒いロングコートを羽織っており、寒さで身震いすることもなく、ただいつも通りのようにそこに佇んでいる。
ここまで考えると気になって仕方がなくなるのが人間であり、迷いながらも口を開いてみた。

「寒くないのですか?」

沈黙が流れる。
エリスは聞いてみて後悔した。
明らかに相手にされていないのが沈黙で丸分かりで、またいつもの事かと胃が痛んだ。

「……寒いと感じるのは人間の特権だ……産まれた赤子の頃から寒がりな人間が、寒くないなど有り得ない」

だが、珍しく真面目に反応を返したマサトの口振りに驚いた。
驚いた拍子に頭の中が反応出来ず、一瞬何を考えていたのか分からなくなる。

「……産まれた当初も寒く、生きていれば寒さを幾度も経験し、だがそれでも死ぬ時ですら寒がる……人肌の暖かみが無ければ人間は生きれない………だから人間は寒がり、他者を求める」

続いて出た言葉にエリスは過剰なまでに意識をハッキリさせると、思わず口が開いた。

「では、貴方は今…寒いのですか?」

再びの問い掛けに、またもや暫しの沈黙が流れるとマサトは人々が行き交う大通りからエリスに視線を向けた。
能面のような感情のない、表情らしい表情がない顔が歪んだ。

「……何も感じないさ」

いつもの妖しい笑みが、そこに在った。





【PHASE.8】
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