纏本

□PHASE.9『爪痕』
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「…………」

悲鳴が聴こえる。
恐怖がつたわる。
泣きながら、叫びながら武器を向けてくる。それでも僕はそれを拒絶する。
自分が居る場所。
それは戦場だ。

「……もう辞めろ!」

恐怖を、拒絶を醸し出しながら向かってくる敵に不殺の攻撃を与える。
こんな偽善的な事でしか己を表現できない。
奪った者と奪われた者。
この戦場で残されたたった二つの事実。
それでも嫌が応でもそれは繰り返される。
思考と意思の対立が齎す結果は痛み分けにしか過ぎない。
なのに人間は争わずにはいられない。
白黒はっきり決着をつけたいのだ。
どちらかが滅びるまでそれは続く。
今、エクレールが無理矢理割って入ったこの場所はそういったモノなのだ。
分かっていたつもりでも、分かっているつもりでも、嫌でもそれを実感させられる。

「……でも、逃げるだけじゃ何も守れない!!」

放たれる砲火を避けながら機体の砲門向けると、そのまま武装だけを狙って放った。
正確に放った射撃は全て綺麗に吸い込むかのように武装や頭部だけを破壊し、戦闘力を奪う。

「っ!」

放たれたミサイル群を視認すると機体を動かし、次いで放たれた射撃を避けながらボズゴロフ級の甲板に佇む黒いザクを視界に入れる。
狙撃力が高いザクに、乗ってるパイロットがそれなりにレベルが高い事が伺える。
それでもエクレールからすれば訓練生のように感じた。

「……戦闘を辞めろ!」

かといって放っておけば後々厄介な事になるのは自明の理だ。
サーベル持たせて正確な射撃を避けながらすれ違い様に椀部を切断し、次に迫るウィンダムへ向かった。





この日、黒海で行われたザフトと連合の戦闘は思いがけない形で幕を下ろした。
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