long story

□夢
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*第一章* 悪夢


ーーザザザザッッザザザザッッ

複数の妖怪が走る音が後ろから聞こえてくる。

ーーブチッ

何かが切れる音。

そして自分とともに走っていた彼の足音が遠くなった。

『黒鵺!何をしている!』

『大切なモンなんだ!』

オレの問に大声で叫んだ彼。

その時ーー

ザシュッ グサッ

『く、黒鵺ーーー!!』

『ぅ、ぁあ……っ』

彼の身体に何本もの竹が刺さる。

もう、彼は駄目だろう、と思った。間に合わない、と。

(嫌だ……っ。黒鵺っ)

近寄ろうとしたオレに彼は鋭い声で叫ぶ。

『俺にかまわず、行けーーー!』

イヤだイヤだイヤだ!独りなんて!お前がいなければ意味がないのにっ。どうせだったらお前と一緒に……っ




「蔵馬っ!」

「……ァ!?……ハァ……ハァ……ッ…」

名前を呼ばれて初めて気づいた。

さっきのは夢だった、と。

身体が怠い。動かすのも億劫だが目を彷徨わせる。……頭が痛い。

やっとの思いで名前を呼んだ声の持ち主を見ると、幽助だった。

心配そうにオレの顔色を伺っている。

「………大丈夫……じゃねぇよな。うなされてたぞ、お前」

そう言って幽助はオレの額に手を当てた。

「熱……はねぇな。って大丈夫か?」

ビックリして固まっている俺を見て苦笑した。

額に当てていた手をオレの頭に移動させゆるゆると撫でる。

その手つきは彼らしく優しい手つきだった。

でもオレが好きだった彼の優しい撫で方ではなくって、心がどんどん沈む。

「ねぇ、そういえばキミはなんで此処に?」

此処はオレの部屋だ。

たしか昨日の夜は……そうだ。黄泉に呼ばれていていつも以上に仕事を押し付けられて帰ってきてからーーえ、と

でも鍵もちゃんとしめたし……窓の鍵はあいてるけど、と考えていると幽助はあぁ、と言った。

「煙鬼のオッサンが蔵馬に頼みがあるんだってさ。俺が人間界に用があったからそのついでに呼びに来たんだけどよ……」

幽助は苦い顔をして一旦言葉をきった。

「どれだけインターフォン鳴らしても出ねぇのにお前の妖気はあるし気配もあるし。…どうしたんかな〜って思ったから勝手にあがった」

「……そう」

「で、うなされてるお前見つけた。大丈夫か?」

撫でる手を止めずに説明をしてくれる。

これ以上心配かけたくなくって大丈夫と言おうとしたらーー

「なワケねぇか」

「えっ」

だって、と彼は続けて喋る。

「まだツラそうな顔してる」

言われて初めて気づいた。顔が少し強張っている。

幽助はそんなオレを安心させるようにゆっくり、ゆっくり優しく頭を撫でる。

「ふぅ……」

それに合わせてゆっくり息を吐く。

まだ少しだけ怖い。

ーーでも大丈夫。さっきよりも落ち着いた。

「幽助、もうーー」

「まだ駄目」

努めて明るく、笑顔で言ったハズなのに幽助は真顔で、強い瞳でオレの言葉を制した。

どうやら見抜かれていたようだ。

(いつからキミは……いや)






いつからオレは幽助を彼と重ねていたのだろうーー
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