yu-yu-hakusho K
□ごめん
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「ふぅっ、…ゆ、……っけ……ゆう…」
ボロボロと彼の頬を温かい液体が濡らしてゆく。
「…ごめん。………ごめんな………ごめん
…」
もう感覚のない腕を必死に持ち上げようとするが彼には届かない。
今すぐ涙を拭ってやりたいのに。
今すぐ涙を止めてやりたいのに。
泣くなよ、と声をかけてやりたいのに、俺の口から出る言葉は謝罪のみ。
ーー当たり前か。
俺は最愛を食べようとしたのだから。
愛しい恋人の顔から視線をずらし、彼の胸元を見やると、赤黒く染まった衣服が目に入った。
決して浅くはない傷。
痛いだろうに、辛いだろうに。
ーーー俺のことが、憎いはずなのに。
彼を殺す、寸前で我に返り目の前の状況に俺は只々怯えることしかできなかった。
自分が恐い。
気がついたら俺は、己の身体を食っていた。
傍で蔵馬の悲鳴が聞こえた気がした。
やめてと何度も泣き叫んでいて、彼らしくなく動揺していた。
そうさせたのは紛れもなく俺で。
俺は彼を、恋人を、最愛のヒトを食べようとした。
赦されるべきでない大きな罪。
いっそ軽蔑の目で見てくれたらいいのにーーー、そう思う。
後悔すればいいのにーーーそうすれば、きっと俺のことを嫌いになるから。
「ゆ、すけぇ……っ、やだ、やめて。死なっ、ないで……おいて…かな、いでよ。……ック…………。せめて、連れて……っ……っんぅ、つれ、てってよ」
止まることを知らない彼の涙。
「……ごめん……大丈夫だから……ごめん。」
それしか言葉が浮かばない。
こんなカンタンな言葉で赦される罪なんかじゃないのに。
「オレの…こと、くって……っいいからぁっ……キミがのぞ…むなら、オレは……っ」
泣きじゃくりながら紡がれた彼の言葉にゾッとした。
蔵馬を喰うことを望む?
違う。
望んでなんかない。
彼を食べたくない。
死なせたくない。
殺したくない。
「……ッあ、………ゆ、すけ……っ…」
絶望の淵で俺の意識はどんどん薄れてゆく。
このまま俺は逝くのか。
辛そうな彼の嗚咽を聞きながら。
ーーー苦しそうな彼を遺して。
だったらいっそ二人で死んだほうがいいのか?
こんな考えをしている俺は狂っているのか。
あぁーーー、ごめんな。蔵馬。
俺はお前を守るどころか逆のことをしようとしていたんだな。
ごめん。
赦さないで、俺のこと。
いっそ、忘れてしまえ。
俺のこと全て。
ごめん。
ありがとう。
愛してる。
俺にこんなこと言う資格なんてないけれど、届いてほしいと願う俺は我侭だ。
最期まで甘えてたな。
……ごめん。
俺の最後の記憶にあるのは蔵馬のツラそうな顔と泣き声だった。