yu-yu-hakusho K

□安らかな時を
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『きょうこのあとじかんある?』

つい先程恋人からのメールがあった。

彼からのメールは珍しい。

しかも何故か全部平仮名。

いつも自分からだしそれの返信もくれない。

やべっ。自分でいって泣けてきた。

俺は返信をするために文字を素早く打つ。

『悪ぃ。今日はこのあと屋台あんだ。どうかしたのか?』

ピロン♪

メールを送って数十秒後に着信音が鳴った。

『いや なんでもないよ ごめんね』

メールを開くと案の定。謝った言葉があった。

(何でもねーワケねーだろ)

俺は返信せず、開ける予定だった屋台を止め、蔵馬の家へと向かった。


ーマンションにてー

数十分走って着いた蔵馬ン家。(勿論、人間といえるスピードで)

妖気を探ると中に居るようだ。にしては静かな気が……。

とりあえずインターホンを押す。

ピーンポーン……

「………。」

気が付かなかったのか。

ピーンポーン……

(……。)

ガチャン!

3度目を押す前に俺はキレかけてドアを開けた。

「くら……あり?」

中に入ると廊下もその先のリビングも真っ暗だった。

仕事部屋にでもいるのだろうか。

だが、部屋にいる時も廊下の電気はついていたはずだ。

とりあえず彼を見つけ出さないと。

「蔵馬〜?」

……モソッ

彼の名前を呼ぶと仕事部屋の隣の寝室からかすかな物音がした。

(………?ここにいんのか?)

「蔵馬入んぞ〜」

一応断りをいれてからドアノブを回す。

すると、

「……ん、ふ……ぅ」

という声が聞こえた。

その方に視線を泳がせるとベッドだった。

ベッドに横になっているのは勿論蔵馬だった。

「……蔵馬?寝てんのか?」

声をかけてみても返事がない。

聞こえるのは……

「はぁ……はぁ……」

苦しそうな息遣いばかり。

(大丈夫か……?)

もしかして、と思い、寝ている蔵馬の額に手をあてた。

思ったとおり、熱い。

(オイオイ、一体何度あんだよこりゃ)

よく見ると彼の頬が赤い。

汗も出ているし、息苦しそうだから辛いのだろう。

「………は〜ぁ」

俺は溜息をつき、蔵馬の頭をひと撫でし部屋を出た。

(まずは濡れタオルだな。の次に……)


ー寝室ー

苦しそうな蔵馬の額にタオルをあててやる。

少し反応したが起きることはなかった。

(どんだけ無茶したんだよ……)

いまだ熱っている頬を撫でながら呆れる。

仕事に夢中になるといつもこの有り様。

いや、いつもはこんな酷くないか……。

どんだけ考えても、タオルを何回替えても、どんだけ時間がたっても蔵馬は一向に目を覚まさない。

俺もさすがに眠たくなってきた。

だが、彼が目を覚ました時の為に寝ずに踏ん張っていた。

そして、とうとう外が明るくなってきた頃……。

「う……ん」

蔵馬の手が若干動き、次に瞼がピクリと動いたあと、ゆるゆると翡翠色の瞳が見えた。

「蔵馬、平気か」

「……んぅ…?」

彼の瞳はまだボンヤリしていて焦点が合っていない。

数秒間待っていると、俺の姿を認め不思議そうに目をパチクリさせる。

「ゆー、すけ?」

何故、とでも言いたそうに俺の名前を呼ぶ。

「はぁ、お前からのメールがきて返信したら何でもねーってか?おかし過ぎンだろ」

ポカンとしている彼に説明してやる。

「でも、ゆーすけ、やたい、あるって……」

辛いためかたどたどしい口調だ。

「心配でンなもんできるワケねーよ」

相手が病人だから控えた声で言ってやる。

言われた彼はシュンとしている。

「……ごめん」

はぁ。

俺は心の中で溜息をつき、立ち上がる。

「水持ってきてやるから待ってろ」

安心させるためにゆっくり言うと彼は頷いた。



水を持ってきて、飲ませるために彼の身体を起こすのを促す。

蔵馬1人では上半身動かすのも億劫なのか顔をしかめている。

俺は手伝うべく彼の背中に手を回したら以前会った時よりも細い気がして顔を覗き込んだ。

蔵馬は体調が悪くなると食べなくなるから、余計に悪くなる。

「蔵馬、いつから調子悪ィ?」

「……さぁ?」

はぐらかしやがったコイツ。

だが、はぐらかすということは数日前からだろう。ヘタするともっと前。

こんなになるまでほっといたのか、という呆れの感情と無理補しないでほしい、という心配な気持ちが頭を巡る。

溜息をつきたいのを堪え、コップを差し出す。

「とりあえず、飲め」

そう言うとゆるゆると蔵馬の手がコップに伸びる。

全部な〜と、付け加えると蔵馬は半分以上入った水を見て、眉根を寄せた。

だが、何も言わずにコップに口をつけた。

ゆっくりだがコップの水が減っていくのを見て、ホッとする。

おそらく水分も摂っていなかっただろうから。

しばらく待っているとコップの水が空になった。

「もっと飲むか?」

そう聞くと案の定、首を横に振った。

「……ん〜、じゃあ何か食え。粥でも作ってやっから」

そう言うと口を開こうとするが俺はかまわず部屋を出ていった。



部屋に戻ると蔵馬は眠っていた。

そんなに時間は経っていないはずなのに。

疲れていたのか、それとも辛かったのか。おそらく両方だろうが。

だが、さっきよりも顔色はいい。

起こすのは気が引けるがいい加減食べてもらわないと。

「蔵馬〜。起きろ〜」

「…う〜…ぅ…」

頬をぺちぺち叩きながら声をかけるとゆっくり瞼が開いた。

「作ったから食え」

「………や」

「やだはナシだ。食欲なくても食え」

有無を言わせない風に言うと諦めたらしい。粥に手を伸ばす。

俺はその手から遠ざけるようにした。

「……?ゆー」

「熱ィから食わせてやるよ」

笑いながら言うと蔵馬は丸い目をさらに丸くさせる。

「……じぶんでできる」

どうやら子供扱いされた、と思ったらしい。

必死に腕を伸ばしている。が、その腕も若干フラフラ。

「はぁ、無理すんな。今日ぐらいは俺に甘えてろ」

そう言って頭を撫でてやると腕を伸ばすのをやめ、じっとする。

俺は蔵馬に笑いかけ、フーフーと、スプーンに掬った粥を冷ます。

「蔵馬、あ〜ん」

彼の口元に差し出しながら言うと軽く睨まれた。恥ずかしいらしい。

全然怖くもなんともないが。

だが、蔵馬は何も言わずに口を開けた。

反論する力もないらしい。

開けられた口にそっとスプーンをいれてやるとゆっくり咀嚼していく。

それを何回も繰り返す。



何分もかけてようやく食べ終わり、空になった茶碗を片付けようと立ち上がる。

ボヤーッとしている蔵馬に顔を向け、「ちょっと待ってろ」と言うと彼はコクンと頷いた。

(薬は飲ませた方がいいよな〜)

薬草でもいいのだろうが人間の体だ。

やっぱり人間界のモノの方が安全だ。

だが、

(蔵馬ン家って普通の薬あんのか?)

無さそうな気がしてきた。

とりあえず台所を探してみる。まぁ、案の定無かったわけだが。

次はリビング。

どうせ無いだろうな〜と考えていると引き出しの中にあった。

薬を取り出しコップの中に水を入れ、部屋に戻る。

「……ゆーすけ、それ……」

「おうっ。こういう時は無理せずフツーのヤツにした方がいいと思って!」

ニカニカしながら言うと蔵馬は苦虫を噛み潰したような顔をする。

「……もしかして薬、嫌い?」

俺が聞くと僅かにだが頷いた。

(意外と子供っぽい……)

大人っぽい彼からは少し想像出来なかったが……薬はやっぱり苦手らしい。

いつもヒトに食わせたりしてるくせに……。

まぁ、とりあえず飲ませないと。

「自分で飲まねぇと口移しでも飲ませるからな〜」

「……うつしちゃうから……のむ」

(…そっちの心配かよ)

かして、と彼の腕が伸びる。

ほい、と彼の手にそっと持っていくとイヤな顔をしながらも飲んだ。

「……ゆーすけ」

薬を飲み終わった蔵馬が俺をジッと見る。

「どーした?」

若干ドキマギしながらも返事をした。

「……に…て」

(………?)

「くら、」

「そばにいて」

本当に普段からは想像できない姿。

甘えるのも珍しい。

俺は微笑みながら、返事をする。

「勿論」



        END
 

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