絆道

□第28章
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「……ユウ、大丈夫か?少し休んだ方がいいんじゃ……」



控室に戻るなり試合場を見下ろすユウに堪らず声をかけた。
何せ今の彼女は高熱に侵されている。
棄権する気がないのは明らかなので、せめて座るなりなんなりして休んでいて欲しいのだが……。
しかし、ユウはふるふると首を振った。



「試合、見ていたいんだ。見てるって、約束したから」



そう言って微笑むユウに、シカマルはなんというべきか分からず、黙り込む。
ユウにとって、やはりナルトは特別なのだろう。
いつもユウはナルトのことばかり見ている気がする。
それは、ナルトと同じく兄妹に対するそれなのかもしれない。
しかし……。



「……妬けるぜ」



自分だって、ずっとユウを見ているのに。
ユウのことを想い、いつだって力になりたいと、そう思っているのに。



「え?」

「いや、なんでもねーよ」



シカマルがナルトだったら、ユウは素直に甘えてくれただろうか。
シカマルがナルトだったら、ユウはもっとシカマルのことを見てくれただろうか。
もしも、シカマルがナルトだったら……この想いは……。



「シカマル」

「!」



シカマルが顔をあげると、ユウは試合場に視線を落したまま、シカマルの服の裾をそっと抓んできた。
思わぬ行動に息を飲み、頬に熱が込み上げてきた。
しかし、ユウの顔色は真っ青で、その指先がカタカタ震えているのに気付き、無言でその手を包み込む。



「……どうした?」

「っ、ううん……やっぱりちょっと体調悪いのかも」

「ちょっと所じゃねーだろ?この超バカ」

「酷いなぁ、そりゃシカマルに比べたらバカだよ」



頼れよ。
その言葉は飲み込んで、代わりに繋いだ手に力を込めた。
しかし、その手が握り返されることはなく……。
それでもと、手を包み続けるシカマルに、ユウは苦しそうに眉を寄せたのだった。


影分身を駆使し、ナルトはネジに向かって臆することなく果敢に攻める姿勢を見せる。
奇襲を仕掛けるも白眼を持つネジに死角はないようで、鮮やかな動きでかわされてしまう。



「火影になる……かァ……。これじゃ無理だな」



小馬鹿にするような笑みを浮かべ、ネジは言う。



「大体分かってしまうんだよ、この目で……。生まれつき才能は決まっている。言うなれば人は生まれながらに全てが決まっているんだよ」

「なんでいつもそうやって勝手に決めつけんだってばよ!てめーは!!」



悟ったような表情で、静かな諭すような声で紡がれたそれを否定するようにナルトは叫ぶ。



「では、誰でも努力さえすれば火影になれる……とでも言うのか?
火影に選ばれるのはほんの一握りの忍だけだ」



ネジの言う通りだ。
世の中にはどんなに努力しても結果が実らず、苦しみ、嘆き、最終的に諦めてしまう人が大勢いる。
志半ばで命を失う者だって、この忍世界では当たり前のようにいるのだ。
否、むしろそういう者たちの方が多いのかもしれない。
いつだって成功するのは一握りの人間だけだ。
夢を叶えられた人間など、きっともっと少ない。



「もっと現実を見ろ!火影になる者はそういう運命で生まれてくる。
なろうとしてなれるものではなく、運命でそう決められているんだよ。
人は、それぞれ違う逆らえない流れの中で生きるしかない……」



ただ一つ、誰もが等しく持っている運命とは……。



「死だけだ」



そう言った時のネジはナルトを見ておらず、過ぎ去った過去に思いを馳せているような遠く、仄暗い目をしていた。
ユウは、どちらかといえばネジの考え方の方が分かってしまう。
誰もが等しく持っている結末は“死”だ。

でも……あたしは?

無意識に拳を握ろうとして、繋がれたままのシカマルの手を握ってしまった。
そのあたたかさに驚き、籠めようとしていた力を抜いて、唇を噛んだ。


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