絆道

□第8話
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あの戦いの後、サスケとユウは念のため病院へ行くことになった。
そして今、ユウは真っ青な顔で冷や汗を流し、小動物のようにプルプル震えている。
心なしか涙目だ。

そんなユウに苦笑しつつ、逃げないようにその手を握り、引っ張っていくカカシ。
その二人の後ろを呆れたような表情を浮かべつつ、付いていくのはナルト、サクラ、サスケと案内を買って出てくれたタズナだ。



「やだやだやだぁあああ!」

「ハイハイ、逃げない!
ケガしてるんだからしっかり看てもらわないとな」

「そうよユウ!アンタだけそんな傷だらけなんだからね?!」

「やだ!絶対やだ!お願い本当に病院だけは無理なんです!ホントに!!
無理ったら無理ー!!」

「……まさか嬢ちゃんがそんなに病院嫌いとは思わなかったわい」


タズナはため息をついた。
そう、現在ユウたちは病院に向かっている最中なのであった。





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「……」

「あ〜……ユウ?大丈夫??」

「……」



町にある小さな病院に着いたユウはズーンと沈み込み、ガタガタと体を震わせながら隅っこに小さくうずくまっていた。
凄まじい罪悪感がカカシを襲うが、これもユウのためと心を鬼にする。



「診察なんてあっという間に終わるよ。
もうちょっとの辛抱だから、がんばろーね」



そう言ってユウの頭を撫でようと手を伸ばすも、彼女はするりと逃げ、更に隅の方へと逃げていってしまった。
ガーンとショックを受けるカカシに首だけ動かし、今にも泣き出しそうな顔を向けた。



「待ってる時間がダメなのに……
カカシ先生の意地悪……」



ボソッと呟いてそのままプイッと再びそっぽを向いてしまった。
一方のカカシは所在なさげに彷徨っていた手で顔を覆う。



(カカシ先生の意地悪……って何あの可愛い生き物!!可愛すぎでしょ!?
うーあーユウ可愛い可愛い可愛い可愛すぎるもっと意地悪したい困らせたい)



非常に加虐心がくすぐられるその仕草に、ユウの名前が呼ばれるまでカカシの顔は緩みっぱなしだったと後にサクラは語る。



「うーん、出血も止まってるみたいだし、特に問題はなさそうですね。
一応確認ですが痛みはないですか?」

「……」



フルフルと辛うじて首を振ることで伝えるとカルテにサラサラっと書き留める。
付き添いで診察室に入ったカカシは苦笑いだ。



「じゃあ塗り薬を処方しますので傷が治るまでちゃんと塗ってくださいね。」

「……ハイ」

「お大事に」



医師の言葉を背にフラフラと病室を後にした。
帰り道、塗り薬の入った袋を手にグッタリとするユウに各々苦笑を向ける。



「そんなに酷い傷じゃなくて良かったじゃない」

「……病院……行かなくても、良かったくらいだよ……」

「も〜ユウったら」



よしよしと慰めるサクラにも無反応である。
あのユウがまるで子供のようだ、と新鮮に思う反面、カカシはやはり複雑な思いを抱いていた。




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タズナ宅に帰宅したユウは塗り薬を置きに部屋へと戻ってきた。
リュックの中に袋をいれようとして、ふと綺麗に折りたたまれた便箋を見つける。



「……そういえば」



白からもらったんだっけ、とぼんやりとした頭で思い出しつつ、手紙を手に取る。
戦いが終わったら見るようにと言われていた、あの手紙。
ユウは手紙を広げ、綺麗なその文字の羅列を目で追っていく。



『ユウさんへ
この手紙をあなたが読んでいるということは、ボクたちの戦いは終わったということですね。
そして、その時ボクは、多分君の傍にはいないでしょう。
……きっと、この戦いの中でボクは君を傷付けてしまうと思います。
だから手紙を書くことにしました。
ねぇ、ユウさん。
ボクは君と過ごしたたった数日間が本当に楽しかったです。
本当に幸せだった。
本当はね、ユウさん。
あの時、君と出会ったあの日……。
君の今の現状が辛いのなら、ボクは君を拐ってしまいたかったんです。
再不斬さんと、ボクと、ユウさん。3人で暮らしたかったから。
君と笑ったり、泣いたり、怒ったり……色んな景色を一緒に見たり……
ボクは……君の隣にいたかった
ユウさん……ボクは……』



その先に続けられた文を読んで、ユウはこみ上げてくる物が抑えられず、思わず駆け出した。
玄関の辺りでサクラとぶつかって、驚いたような顔を向けられて、それでも止まれなかった。
走って、走って、走って……ひたすら走った。
何度も、何度も転びそうになって、足をもつれさせながら走った。

呼吸が荒い。
胸が苦しい。
心臓が耳のすぐ傍にあるみたいにドクドクいっているのが聞こえる。

気がついたら、白と出会ったあの場所にいた。
そこは、白と出会った時と変わらずそこにあって、一つ変わったことがあるといえば、簡易式に作った白と再不斬のお墓があるくらいで。



「はっハァ、ハァっ……」



膝が笑っているのも構わず、白の墓へと歩み寄り、そっと手を伸ばす。
縋るようにそれを撫で、崩れるように膝をついた。



「白…白、……白……白っ……!!!」



何度名前を呼んでも……もう白が応えてくれることはない。
優しい微笑みを向けてくれることも、ない。



「どうして……」



座り込んだまま、手紙の続きを思い返す。



『ユウさん……ボクは……
ボクはユウさんが好きでした
君を幸せにするのはボクでありたかった。
ユウさん、ありがとう。
そしてごめんなさい。
君は、愛する人と幸せになってください』


「どうして……っ
どうして泣けないんだろうなぁ」



泣きたいくらい、苦しいのに……。
くしゃりと笑みを浮かべたユウは、涙こそ流してないものの泣き笑いのように痛々しかった。
心臓のあたりを鷲掴み、痛みを堪えるように瞳を閉じて白の墓に額を付けた。



白、あたしの方こそゴメンね
ありがとう
楽しかった、幸せだった
あたしも、もっとあなたと一緒に居たかったよ
あなたと同じ意味ではないかもしれないけど……



「大好き、だよ……白―――――」



ずっとずっと、忘れない


そっと風がユウの頬を撫でた。
その感触に白が重なって、瞳を閉じたまま微笑んだ。
その先に、いつかの白が柔らかな微笑みを浮かべているような気がして――――。





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