短編

□マルコ娘
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人が多く通る賑やかな大通りから外れ、怪しげな風貌、ぼろぼろの様相をした者達が多くいる裏路地を、少女は、酷く体が重そうに歩く。
服装のちゃんとした人間を見て一瞬襲おうと起き上がりかけた者達はそれがレンだと知ると途端動きを止めた。

人混みが面倒だと言って裏路地を通って襲われ、その都度襲ってきた者達を虫か何かのように軽く払うレンと彼女の母、セイエンの3人は手を出してはいけない存在として知れていた。ーー同時に、仲睦まじい家族としても知れていた。
笑い合いながら裏路地を通る様は異様としか言えない。けれど幸せそうな様子で。
あんなにも幸せそうに笑いあっていた家族の、あの小さい娘が母を殺したなんて噂は、裏路地の住民からしてみれば笑い話だった。
彼らを嫌っている者でさえ、その噂を本気にすることはない。
それほど、傍目から見ても幸せな家族だった彼ら。母親とその親友に挟まれて、眩しいくらいの笑顔を見せていたレン。

当時の快活さこそ失われたものの、レンはこれほど力の無い歩き方をする子でもなかった。−−母親を亡くした時でさえ、無理矢理引きずられる死体のような、こんな悲愴な歩き方はしていなかった。

「嬢ちゃん…?何かあったんかい?」

そっと声をかけてきた男に一瞥さえ向けることなく、レンははそのまま歩いていく。
男は、心配そうに後ろ姿を見つめていたが、自分じゃどうしようもできないだろうとまた座り込んだ。


レンが向かう先は、港に停泊しているモビー・ディック号。
幼い頃から、白ひげ海賊団の中でも強者だった母とセイエンに育てられた彼女の強さは裏路地でも鍛えられ、億超えでもない海賊なら軽く倒せるほどにまでなっていた。中でも、気配の消し方、見聞色の覇気は相当な使い手。

レンは、モビーにいる数人の見張りの目をすり抜け、船長室の扉を開く。
眼前には、母やセイエンから沢山聞いた偉大なる父の姿。侵入してきた少女に、しかし彼の人はその小さい姿をじっと見つめるだけで。

少し前に出て、少女は口を開く。

「あなたの、だいじな娘を殺したのは、私です」

それだけ言うと沙汰を待つように目を伏せ、口を噤む。白ひげは何かを探すようにレンを見つめ続けて。
微かな呼吸音だけが響く広い部屋。乱暴に扉が開く大きな音が、広がる静寂を壊した。

「オヤジッ!!」

白ひげがすっと視線を動かせば、サッチとセイエン、それと見張りをしていた内の1人の3人。驚いていないところを見るに、足音なり覇気なりで気付いていたのだろう。

見張りの男は白ひげの前に座る少女を見ると部屋の外で愕然と立ち惚ける。嘘だろ、ちゃんと見てたのに、と小さい声が驚きを顕にしていた。

サッチとセイエンは部屋の中に転がるように駆け込むと、そのままレンを庇った。
セイエンがレンの体を引っ張って抱き込み、両手で頬を包んで正面から顔を合わせる。

「レン!こんの馬鹿娘!お前がいねぇ部屋見てどれだけ心配したと思ってんだ!オヤジに殺してもらうつもりだったのか!?アイツがお前の母さんを殺したって聞いて殺そうとしたみてぇに、オヤジに殺されるつもりだったのか!?」
 
セイエンがそう怒鳴る傍ら、サッチは彼らの前に立って敬愛する父を見上げる。
白ひげは、何も言わず彼らを見、サッチが口を開こうとしたのを手で遮って。

「孫が出来たか」

ニッと口角を上げてそう言った。
サッチは心底安堵して溜息と共に肩の力を抜いた。

「分かってたのか…。よかったー!めっちゃ焦ったんだぜ?さすがオヤジだな!あのクソパイナップルとはえらい違いだ!」
「マルコは何したんだァ?あのチビの言動とセイエンが言ってるのを聞いてる限り拳骨じゃ済まねェぞ」

先程とは打って変わって顔を顰めた白ひげに、サッチは後頭部に手をやって言い淀む。
白ひげはレンに向かって怒鳴り続けているセイエンに視線をずらし、それを止めると説明を求めた。推測はいくらでも出来るが、事情が一番分かっている奴に事実を聞くべきだ。



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帰り道「main
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